世界平和に一番近いところ――なんでもないのに、ふたりならではな恋人たちの日常『眠くなる前に話したいことがあと3つあって』
昔と違って今は、雑誌に連載されればほとんどの漫画が単行本となって発売されるから、本になって嬉しい、という感覚はとても新鮮だった。出版社を通していない、バーコードのない本。迷わず通販サイトに飛んで、注文フォームを埋めていた、そんな、ずっとファンだったWeb連載漫画を紹介する。
はしゃさん( @hasya31 )という方が描いた、とある実際の恋人たちを原案にしたなんてことのない日常。『眠くなる前に話したいことがあと3つあって』。
本当になんでもないシーンなのに、この「毎日」は、とんでもなく特別だ。恋人だったり友達だったり家族だったり、もちろん人間関係の織りなす時間は誰にとってもかけがえのないものだけど、その意味以上に、このふたりの時間は特別素敵。
絶対ちょっと変だし、不思議だし、個性的で、おかしくって面白いけど、ほっこりして、時々ほんのちょっぴりだけ切ない。どの言葉もひとつを選んでしまうとアンバランスでキャッチコピーにならない。なんでもないのに、ふたりならでは。恋人って、どの組み合わせも同じにはならないのだけど、このふたりは、この掛け合わせだからこそ、ふたりが手をつなぐからこそ、生まれる言葉や空白の時間があって、それが本当に本当に、最高だ。なかなかこの会話には辿り着けないことが、少し覗き見るとすぐに分かる。
ふたりは、歯を磨くことも、朝起きることも、料理をすることも、でかけることも、だらだらすることも、全部ことば遊びをするように、楽しく、かわいく過ごす。この「恋人さん」のセンスと謎の女子力の高さが大きな鍵に見えるのだけど、彼と一緒にいる彼女もその掛け合いに応戦している。
もしかしたら、仲良しのカップルの話なんて読んでいられるか! という人もいるかもしれないけれど、この漫画は嫉妬や羨望みたいなものはぴょーんと飛び越えて、こっちの脇腹をくすぐってくるみたいにふわっと距離を詰めてくる。突然道端でこの「恋人さん」に飴玉をもらったみたいな、「そりゃどうしたって機嫌良くなっちゃうよ!」っていう感じのパワーがある。今日がいい日になってしまう。きっと世界平和に一番近いところに、恋人たちはいるんだと思う。
漫画担当のはしゃさんが作り出す景色や空気も、このふたりの彩りになっている。木々や、風や、日差しや、街を歩く人の声。1編ずつ違うコマ割りと切り取りの緻密さが好きだ。
単行本はこちらのストアでも購入できるほか、一部書店でも委託販売が行われている。
多分これからはもっともっと、Web上で面白い作品に出会える時代になっていく。でも、アップされたものはいつ消えてしまうかわからなかったりして、作者さんに還元する方法もあまりなかったりして、だからこそ、こうして本になったり電子書籍になったりして、購入できるってことの嬉しさを改めて感じられる気がする。
ちなみにこの作品は、Tumblr等で読める部分以外にも40p以上の描き下ろしが追加されている上、ひとつひとつにタイトルがつけられていて、デザインも素敵に組まれている。ファンにとっては嬉しすぎる。
これからもこんな素敵な時間が続きますように。できることならそれをまた、ディティールまで惚れ惚れとしてしまうはしゃさんの漫画で読みたい。
好きなものにお金を払える幸福のために働いている(KAT-TUN「10Ks!」を買ったよ)
わたしなんかが書かなくても愛も名文も溢れているので、実はKAT-TUNについて書く気はあまりなかったのだけれど、どんなものも後から自分の考えていたことを知れるのは貴重だということを思い出したので、少しだけ書いておく。
KAT-TUNを好きになる日がくるとはこの10年の前半は全く想像もしていなかった。むしろ好きになるまでわたしの中のKAT-TUNは、「知っているけれど好きとは思っていない人」ではなくて、「知らない人」だった。デビューのときの渋谷のスクランブル交差点に大きく貼られたReal Faceの広告はよく覚えていて、高校生で優等生だったわたしは「ひえ〜〜!」と思った。ジャニーズってこういう人たちもいるんだ!怖すぎる!!
でも、唯一親近感を感じたのはそのデビュー曲で、スガシカオで音楽を聴くようになってスガシカオで育ったわたしにとって、「夜空ノムコウ」や「ココニイルコト」なんかに続くジャニーズへの提供曲で、これがかっこよくて、怖いお兄さんたちにはあまり興味はなかったけど(むしろ不良には近づいてはいけないという認識だった)、この曲はかっこいいと思った記憶がある。
そのくらいの認識のわたしでも亀梨さんのことはさすがに知っていて、なのでこの時点でのわたしのKAT-TUNの認識は、「亀梨さんと怖いお兄さんたち」だった。
他のメンバーへの認識はどうだったかというと、奇しくも名前を知っていたのは赤西さんと田中さんだった。辞めるときにニュースになるし、色々な噂があったし、あまりジャニーズらしくないように見えるな〜と思って印象に残っていた。そこで止まっていたので、4人になった時点(?)くらいでも、わたしの認識は「亀梨さんと怖いお兄さんたち」だった。
その状態で、初めて自分で特定のひとりを認識することになる。それがドラマ『ファースト・クラス』で見た中丸さんだった。ファッション誌、出版関連のドラマということで、おまけに名前をなくした女神的ダークさということで、見逃すわけにはいかないと見始めて気に入ったドラマだった。そこで、どんどん強さを増していく沢尻さんと対比されるように、寄り添うように、不思議な距離感の優しい雰囲気のお兄さんが出てきた。役柄の問題もあるけどやわらかーい雰囲気で、この柔らかさはこの人の成分として滲み出てないと出せないだろうな、妙なまじめさというか、と思って気になってしまった。そこでエンドロールを見たら、まさかの「KAT-TUN」だったのだ。KAT-TUN。この人は亀梨さんではないので、必然的に「怖いお兄さんたち」の中の人であるはずなのだけど、とてもそうは見えなかった。「KAT-TUNに、こんな人いたんだ……!?」というのが、わたしが中丸さんを好きになったギャップだったと思う。
中丸雄一さんのこの落ち着く感じなんなの……
— まる (@lebeaujapon) 2015年4月24日
中丸さんいいな、が「KAT-TUN好きだ」に変わったのは、この10年の歴史からしたら遅すぎて言いづらいくらいだけれど、去年のライブ「9uarter」だった。ライブの魅力については多くの人が書いているから割愛するけれど、とにかくその演出の豪華さと緻密さと大胆さと物語性に一気にハマった。衣装や演出に「和」みたいなテーマがあるのもときめいた。
まったく予習せずに行ったので、「Real Face」と「In Fact」と「KISS KISS KISS」以外はほぼ知らない曲だったけれど、それでも飽きることなく苦なく全部聞けて楽しめるのがすごかった。ここで妙に、ああ、そりゃあスガさんの曲でデビューしたんだもんなあ、と納得したのを覚えている。ロックで、ダークで、かっこよくて、リズムの刻みがはっきりしているタイプの曲はわたしの好みで、ジャニーズがどうとか顔がとかスタイルがとかの前に、聞いていなかったのが悔しくなるくらい好きな曲のスタイルだった。その曲たちひとつひとつを4人が演出や表現や表情で魅せてくるのだ。ライブに行って完敗だハマるしかないと思ったのはPerfume以来だった。
KAT-TUN初めて来たけど楽しすぎた…今まで見たジャニーズのなかで意外にも一番好きかもしれない…!
— まる (@lebeaujapon) 2015年5月10日
亀梨さんと怖い人たちみたいなグループかと思っててごめんなさい、いい人感溢れでてたよ
今回のツアーは、東京の30日に参加した。ライブはやっぱり最高で、これまでは2回目3回目で慣れてくると最初の感動が薄れてくるパターンもあったけど、KAT-TUNはまったく薄れず、やっぱり好きだ、と思った。3人になっても足りなく感じたりしなかった。中丸さんのMCとか言葉遣いのセンスが本当に好きで、飄々としながらひねったり毒舌吐いたり、ずっと丁寧語だったり、どの場面も好きだった。
翌日の1日は、今日最終日なんだなあ、みんなどんな感じかなぁと思ったら寂しくて、朝普通にシューイチに出る中丸さんを見て、その日は妙にそわそわして、ずっと9uarterのDVDを見ていた。ライブを見たのはたった2回で、10年の最後のほうしか知らないけれど寂しくて、わ〜ほんとに好きになったんだなあ、と思った。
「自分がジャニーズを好きになる」ってことはすごく意外だったけど、これまで読んできたものとか聞いてきたものとかを振り返れば「KAT-TUNを好きになった」ってことはむしろすごくしっくりきて、それが嬉しかった。それで、うん、やっぱり買おう、と決意して、ベストアルバムの「10Ks!」を買った。CDって、この時代だとレンタルで安く聞けちゃうけれど、彼らの活動に1人分でも参加したいなぁと思った。普段節約してでもここには絶対お金を使う!って思えることは、そしてその対象がいてくれるってことは、ほんとに幸福だなあと思う。音楽ではPerfumeとチャットモンチーとKAT-TUNがわたしにとっての対象で、きっと販売数とか動員数とか数がものを言うこともあるはずだから、これからも応援したい。それでこそ働く意味があるというものだ!!
とりあえず、亀梨さんの「PとJK」が発表されたし、この充電期間の間にもメンバーをたくさん見られますように。中丸さんにもまた演技してほしいし、ずばっと言うところとか変なところでこだわりが強くて面倒臭いところとか職人気質なところとかが好きなので、いっぱいいろんなところで見たい。続報を楽しみに待ちます。
10TH ANNIVERSARY BEST “10Ksテンクス! "【期間限定盤2】(2CD+1DVD)
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トピック「KAT-TUN」に寄せて。
2015年勝手にドラマランキング
気づいたら4月になってました。遅すぎるけど2015年に見たドラマまとめ。あくまで見た26作品のみですが、勝手にドラマランキング。好きだった順にご紹介。
アイムホーム(4月期/テレビ朝日)
事故によって直近5年ほどの記憶をなくした男・家路久。回復後、家に戻り妻と息子と暮らしますが、彼には二人の顔が「仮面」に見えてしまいます。表情も感情も読み取れず戸惑う中、自分の記憶を探っていくと、過去の自分と家族の姿が見えてきて――という物語。手元に残った謎の10本の鍵の束というアイテムがさらに先が気になるように導いてくれて、夢中で見ていました。
個人的にはハッピーエンドバッドエンド関わらず終わり方が作品の良さの何割かを決めると思っていて、この作品はこの1年で見たものの中で結末が一番好きでした。もう一度全部見たいし、誰か信頼している人と一緒に見たい。原作知らなかったけど、読んでみたくなりました。木村拓哉さんと上戸彩さんのことをとっても好きになる。
サイレーン(10月期/関西テレビ)
とにかく面白かった! 伏線にも設定にも無理がないのに驚きがあって、よくできた物語という感じだった。メインの松坂桃李さん、木村文乃さん、菜々緒さんの演技の上手さもすごいし、視聴者として嬉しいのはとにかく画面が綺麗だった。殴られていても殺していても綺麗。松坂桃李さんも木村文乃さんも大好き。うっとりしながら見ていたと思う。
結末をもう知っていても、あまりにも好きでまた見たい……。ねえねえ面白いよってまだ見てない人を巻き込んでもう一度にやにやしながら見たい。
ゴーストライター(1月期/フジテレビ)
天才と呼ばれる小説家・遠野リサと、夢を諦めて田舎に帰ろうとしていた小説家志望・川原由樹。遠野リサのアシスタントのアルバイトに呼ばれた由樹は少しずつ才能を開花させ、書けなくなったリサは、由樹に書くことを委ねていく――。
何がすごいって、最初から「ゴーストライターになって」と言って世間を欺くみたいな展開ではなくて、少しずつ少しずつふたりの関係性が変わっていって、お互いの意識や立ち位置が、転がるように変化していくところ。脚本と流れとお芝居があまりに美しくてずっと目を離せなかった。悪事に手を染めたなんて意識はなかったのに、いつのまにか引き返せなくなっている。任せてあげてる、からやってもらっている、に変わっている。鮮やかすぎてこんな作品を作れること自体に驚嘆してしまいます。
小説家対世間ではなくて、あくまでふたりの間や、ふたりと関係している人間同士の近距離の感情のやりとりが描かれているのがとても良かった。かなりおすすめ。
コウノドリ(10月期/TBS)
綾野剛さん主演の産科医の物語。毎回いろんな事情の妊婦さんが現れてそれをチームが救おうとする構成で、同時に主人公の過去や気持ちが見えてきます。医療モノにあってほしい重みもあって、とても丁寧につくられていて、丁寧に演じられていた印象でした。病院内の確執とか利己的なお医者さんが出てくる話も多いけど、この作品は登場人物みんなを好きになる。ほぼ毎回1話完結なのに次が気になってしまういい作品でした。
なんといっても綾野剛さんがほんとにほんとに素敵すぎる……。「大丈夫ですよ」「頑張りましょうね」って言葉をかける時が多くて、そのにこっとした笑顔に、ただテレビの前で画面を見てるだけでも安心してしまったから、出産時あんな風に笑って言葉をかけてもらったらきっとすごく嬉しいと思った。ピアノを弾く役でもあって、特にカツラをしないで弾いてるシーンは絵になりすぎて素敵すぎて最高でした。映画『ピースオブケイク』のちょっと乱暴な感じもかっこよかったけどこの優しくて奥深い感じもかっこよかった。背格好なのかセクシーさもあって最強だと思う。
松岡茉優さんも山口紗弥加さんもよかったし、吉田羊さんの役もよかった。松岡茉優さんなんでこんなに元気が出るんだろう。かわいい。今一番好きな女優さんのひとりです。赤ちゃんを取り上げたときの「おめでとう〜!」っていう掛け声とか、嬉しいことがあったシーンが、みんないつも本当に嬉しそうで、それがすごく素敵なドラマでした。いっぱい目に涙を浮かべてしまった。
でも、出産は怖くなった!笑 大変そうすぎる。小栗旬さんがシングルファーザーになる役で、会社に保育園から電話がかかってきて商談をダメにして上司からは戦力外通告されて、なんてみてると辛くてしかたなかった。子供産むのってあまりにも大きなことだな。またいつか見たいです。
表参道高校合唱部!(7月期/TBS)
歌をきっかけに結ばれた両親の離婚危機を救うため、合唱大好きな主人公・香川真琴が高校で合唱部を盛り上げて奮闘する物語。元合唱部としては見ないわけにいかないタイトルで、最初のプロローグで「地球にはハーモニーが必要である」って言われた瞬間もう何かに負けていました。
レベルの高さや上手さでおしてるわけじゃないけれど、1話ずつのクライマックスでハーモニーが鳴るとき一緒に感情も動くように作られてて、1音1音重なるたびに毎回ぼろぼろ泣いてしまった。ポップスとか懐メロとかオリジナルソングとか色々出てくるのが、どの選曲もすばらしくて、人のこころが歌に動くのには理由があるんだなってことを何度も何度も思い出させられました。また、キャスト陣の合唱が、すっごく素直で丁寧な歌い方でめちゃくちゃ素敵で、わたしもこのメンバーと歌ってみたいって思うほど。最後に一瞬だけ出てくる「ここから始まる」っていう曲とかも綺麗で、一瞬しか出ない曲でも完成度を高めるには練習が必要なはずだから、その作り込みのすごさに感激しっぱなしでした。練習の楽しそうな時間まで想像してしまって羨ましくなりました。キャストのことみんな超超好きになった。
志尊淳くんは『5時から9時まで』と印象違いすぎてびっくり。こちらは好青年で嫌味がなくて謙虚で一生懸命という素敵すぎる役どころで安心する笑顔ですごく印象に残りました。あと眼鏡取って変身した萩原みのりさんが可愛かった……。今をときめく若手キャスト陣に加えて城田優さん神田沙也加さんと本気のメンバーだったし、堀内敬子さんも初めて歌を聴いたのだけど響く歌声で素敵だった。
歌の力と脚本の力とキャストの力たぶんすべてによって、学園もののチープさが全然なかったのがすごく好きだった。とにかく心が豊かになる作品。サウンドトラックもスコアも出てるし久々に歌いたいなぁ。
TBS系 金曜ドラマ「表参道高校合唱部! 」オリジナル・サウンドトラック
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以下はつづきに。
続きを読む高校俳句部のチーム戦から目が離せない。『ぼくらの17-ON!』がとびきり熱い!
映画『ちはやふる』が大ヒットとなって、話題になっている。そんな今だからこそ紹介したい漫画作品がある。真剣に勝負することだったり、チームの中での立ち位置だったりに胸を熱くした人には是非読んでほしいのが、アキヤマ香さんの『ぼくらの17-ON!』(全4巻、双葉社)だ。
『ちはやふる』が競技かるたという新たな世界を見せてくれた作品なら、『ぼくらの17-ON!』が見せてくれるのは「俳句」。5人一組となって俳句甲子園を目指す高校俳句部の物語。
俳句というと、小中学校で作らされたとか、お〜いお茶の賞に応募したとか、祖父母世代の趣味とか、そのくらいのイメージなのではないかと思う。名作と言われているものを読んでみても、いまいち何を言っているのかわからない。でも、わからないって言うのも恥ずかしいし……という感じで、多くの人の生活から遠くなっているものだ。
主人公の久保田莉央も、俳句になんて全く興味がなかった。少し面倒くさがりな普通の高校生。でも、一目惚れした女の子が俳句を好きで、近づきたい一心だけで、軽い気持ちで俳句に触れる。いきなり連れて行かれた近所の公園での吟行で、俳句を詠もうとしてみて、周りを見渡して、はじめて目に景色が飛び込んでくる。
(1巻19ページ/35ページ)
これが、ものすごく鮮やかなのだ。漫画として、背景や絵と一緒に表現されているからこそ、一句一句が色づいて見える。俳句のことが全然わからなくても、ぞわっとしたり、なんだかうきうきしたり、つられて揺さぶられてしまう。こんなふうに景色が見てみたい。俳句なんて全然興味がなかったのに、来年の分も、再来年の分も、彼らの俳句を聞きたくなるから不思議だ。
5・7・5という限定された条件の中で表現するからこそ面白い「俳句」を絵と物語をつけることによって面白く感じるというのは逆説的かもしれないけれど、これはとても幸福な出会いだと思う。
(3巻82〜83ページ)
さらに、俳句の「試合」がものすごく熱い! 句を詠み合った後にディベートをすることだけでもびっくりしたのに、質問したり改良したり、その言葉の掛け合いの熱たるや。文字量はかなり多いのに、あっという間にページを捲っている。
(2巻64・65ページ)
お互いに励ましたり、フォローしたり、ガッツポーズしたりしながら、5人はチームになっていく。その時間を大事にしようとしていく。いいなあ。青春を描いた漫画は数多くあるけど、頭の中や目に見えたもの、その温度ごと表わそうとする俳句が題材だからこそ、とびっきりきらめいて見える。
安定しないけどホームランバッターの莉央。俳句に詳しいけれど突き抜けられない山本。素人だけど肝の据わった杉山。敵として登場する人物たちも、才能のかたちが違って良い。得意なことばかりではないけれど、迷惑も時にはかけるけれど、それでも走り続ける。「俳句」が生み出すチーム戦、いっときも目が離せない。
(2巻28ページ)
同じ人も同じ作品も存在しない。まるで自分も周りも好きになっていく魔法みたいだ。
今連載中の『長閑の庭』もおすすめ。
ちなみに、この記事から、マンガHONZに記事を書かせてもらえることになりました! こういう大きな媒体で漫画のことを話せるのは夢だったのでうれしい。たぶんブログのほうが多くて、そのうちのいくつかをマンガHONZさんで公開していく感じになります。こちらもぜひ。
『リップヴァンウィンクルの花嫁』の幸福
岩井俊二監督・『リップヴァンウィンクルの花嫁』を見た。4月14日、渋谷ユーロスペースにて、18時半の回。とても好きな映画だった。
すごくよかった。できることなら騒音なんて浴びず、満員電車にも揉まれず、少し静かな夜の街を歩いて帰って、そのまま寝てしまいたくなるような映画だった。ふわっふわの布団と広いベッドがほしい。
お酒を飲むことも、ワイルドに盛り付けた料理を食べることも、庭の水やりも、こんなに違って見えるなんて。ひとつひとつのシーンを新鮮に見てほしいから、少しでも喋るとネタバレになりそうで話せなくなる。あのねあのねって言いたくなるいい作品と黙っていたくなるいい作品があるとしたら後者だった。
黒木華さんを好きになった。好きになりすぎて、黒木さんが頷くであろう場面で一緒に首を動かしてしまった。好きになりすぎて、背中や腕をずっと見てた。白くて透明で、細いのにふっくら丸みがある肌。笑うとかわいい、笑ってほしい、ちょっと頰が上気して楽しそうにしてるのが本当に愛しく見えた、髪を結うのも好きだし無防備におろしているのも好き、触りたい。声がとても耳に心地よくて、何度も出てくる彼女の「ありがとうございます」が純粋でまっすぐで、好きだった。もうこれは恋だった。
3時間は全く長く感じなかった。もう終わっちゃうの? とすら思った気がする。空気自体が好きだ。色、アングル、表情や質感の切り取り、静かに鳴り響くクラシックの名曲たち。見終わった後、帰り道を歩きながら、いろんなシーンがよぎった。カラオケのシーンがとっても好きだった。黒木さんの声。Coccoさんの歌。式のシーンの真白さんの表情が離れない。あんなに美しい瞬間はない。楽しくて、無邪気で、あまりに美しい大切な日。幸せだから死ぬのか、幸せだから生きるのか。寓話の中みたいな、にせものみたいな時間こそが、彼女にとってのほんものだという不思議。
浮気とか、性とか、お金とか、そういうものを扱っているのに、どろどろしたり暗くなっていなくてよかった。不思議だ、こうやって言葉を並べると驚くほどかけ離れた下世話なものに見えるほど、『リップヴァンウィンクルの花嫁』は純文学や異国の旅みたいだった。
もう一度見たいけど、映画館じゃなく、Blu-rayがいいかもしれない。DVDじゃなくて、Blu-rayで、ちゃんと綺麗な映像で見たい。静かな時間に家の中を暗くして、ベッドでふわふわした暖かい布に包まれながら見る。ひとりより、女友達か恋人と見たくなった。1度目なら、ひとりで見るのがおすすめ。
好きな映画ベスト5に入った。はじめて、映画監督で「この人の作品を全部見たい」って思った。映画のことが少しわかった気がして嬉しかった。
映画はすぐに手に入らないところがもどかしいなあ。本だったら、好きなシーンだけを繰り返し捲ったりできるのに、映画は熱量のあるうちに反芻したいと思ったらもう一度足を運んで最初から最後まで見るしかない。早く手元に置けるようになりますように。きっと何度も思い出す映画になる気がする。
Bride-wedding scores for rip van winkle-
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舞台『イニシュマン島のビリー』で古川雄輝を好きになった
舞台『イニシュマン島のビリー』を見てきました。4月7日19時の回。世田谷パブリックシアターにて。
古川雄輝さんの前にまず、とにかくこの作品自体がとてもとても良かった。好きな作品だった。久々に、なんだろう、「エンターテイメント!」ではない「舞台」を見た。ああお芝居を見に来たな、と思ったときの独特な緊張。
舞台は1930年代のアイルランド。説明口調がどこにもないのに、舞台セットや衣装や描かれている生活の様子から、歴史やその時代のアイルランドの暮らしが浮かび上がるのがすごかった。牛や岩や洋服や繰り返される行動が、その村の窮屈さと、穏やかだけど単調で退屈な日々を空気全体で伝えてきた。
同じ言葉を繰り返したり、人物名を台詞に過多に入れたりと、演劇的台詞まわしが多くて、ある意味無駄ばかりなのに、無駄がひとつもなかった。その小気味良いリズムと演劇ぶった台詞が逆に登場人物を「物語の中の登場人物」にしていて、リアルさと寓話的な印象を同時に受けるのが面白かった。一気に世界に引き込まれていく感じがした。
セットの作りと場面の転換が好きだった。舞台全体が丸くくり抜かれた台のようになっていて、全体がぐるっと回る。ビリーの家、海岸、教会、ジョニーパティーンマイクの家などがくるくると出てくる。回り切ったら左右が静かに閉まる。一連の動きがお洒落ですらあった。動くところを見せながら回って、余計に1周したときもあって、時間経過の演出が面白かった。このターンテーブルみたいな舞台くらいの広さしか、彼らの世界は広がっていないんだという気がした。毎日同じ人に顔を合わせて、毎日朝と夜が来る。
そして、古川雄輝さんである。舞台全体、全てが良かったのだけれど、彼の演技がものすごくインパクトがあった。ミスター慶応、ニューヨーク、みたいなイメージで、出演作品も『イタズラなkiss』とか『脳内ポイズンベリー』とか『5時から9時まで』みたいな、キラキライケメン男子っていう印象だった。その少女漫画みたいな側面だけでもどことなく気になってしまう引力があって、不思議と見ると印象に残っていて、それで今回のこの役。片手片足が不自由で、みんなにいじめられたり噂されたりしている「びっこのビリー」。登場したときの引きずるように動かす身体にびっくりして以降、ずっと目を離せなかった。
手足を引きずったことはないはずなのに、どこかで見たことがある障害者の方の動きを生々しく思い出す。ちょっと足を引きずるくらいじゃなくて、動かない足を唯一動く片手でぐいっと引いて座るとか、ひとつひとつの動きがすごかった。見ているこっちまで苦しくなってしまうような咳や呼吸も。どこか頭の良さと自意識をこじらせた感じが伝わる妙に冷静な喋り方、ぶっきらぼうさ、情けない呟き。
彼を囲む他の登場人物が「演劇らしい」喋り方、動きでコメディを支える中で、彼だけはつぶやいたり怒鳴ったり、自然な喋り方をするように演出されていて、舞台上で大仰にやらずに自然に見せることがいかに難しいかと思うと、この人すごいんじゃ、とずっと驚いていた。始まってから終わりまでずっと。途中から、次の舞台も絶対見たいと思っていた。キラキラしたイケメンも目の保養には悪くないけど、本気の演技をもっと見たい。演劇関係の皆様……!!
作中にはメッセージがたくさん詰まっていて、どれもまったく押し付けがましさがなくてすごかった。騙す相手は間違えちゃいけないな、人の気持ちを踏みにじっちゃいけないな、と自然と考えていた。人を嗤っちゃいけない、噂話はいけない、だけど一番優しい人は一番バカな人かもしれない。そして、愛情は手を伸ばせば意外に簡単に手に入るものなのかもしれないけれど、それが長くは続かないところが、まったく演劇の悪い癖だ。終始はらはらしていた。たくさん笑った。演出家さん、「森新太郎」さん。初めて拝見した方だったけど、またこの方の作品にも行きたい。
いろんな人に勧めたいけど、東京は本日千秋楽。残念。大阪にこれから行くようです。再演したらまた見に行きたいくらいはおすすめ。ここからちょっと映像見られます。
素に近い古川さんのこんな映像も。
【古川雄輝】舞台『イニシュマン島のビリー』開幕直前特番①/2 2016,03,13
古川雄輝さん、本当にハマる予感がする……! とりあえず、神木くんも出るので、『太陽』見に行こうかなと思いつつ。次の作品も楽しみ。
編集スパルタ塾、最終回でした
4月から月2回、1年間通った「菅付雅信の編集スパルタ塾」が、3月22日に終わりました。なんだかまだ信じられない。来週も再来週もまだまだ課題をやっているような気がします。最終回にも一応課題があって、総括としてのプレゼンをしてきました。
【課題】
「この一年間で学んだ上で考えるあなたなりの編集の定義と、あなたが編集力を使って、いかに世の中に貢献出来るかを説明せよ」
ゲストは塾の教室となっているB&Bを運営されている博報堂ケトルの嶋浩一郎さんと、numabooksの内沼晋太郎さん。最後だしなんだかんだハッピーみたいな感じかと思いきや、結構ちゃんと駄目出しがあるスパルタっぷりでした。
わたしが(文字通り)ぶつけたのは以下。もうこのスライドを貼ればこれ以外は言うことないってくらいのものにできた気がするし、嶋さんが拍手喝采してくださって、菅付さんにも「あなたは好きなものとそうじゃないものがはっきりしてるけど、好きなものを拡張していくことはまさに編集だから」って言っていただいて、すごく嬉しかったです。この日は順位はつかず賞もなかったけど、盛り上がり方では一番を取れたような気がしました。
年間通じた各回の得点合計では1番にはなれなくて、4位という2番目ですらない結果だったのでもっと安定感も習得したいなと思う一方で、内沼さんにも「ホームランバッターは良い」と言っていただいたので、自信を持ってやっていきたいなと思います。ゲスト賞は最多4回いただけて、何度かは記憶に残れたかなと思うので、よく頑張ったなあと珍しく自分を褒めたいです。一度も欠席せずに毎回出たし、どんなに遅刻しても課題も出したし、12万円自腹で出した分絶対に一度も手を抜かないって決めていたので、それは達成できたと思います。
ノートはずっととりつづけてた
最初、塾に通い始めたときに、「無駄なもの、くだらないものってなんなのさ」って記事( 自分の感性を疑いたくなる、という話 - 物語のなかをぐるぐる廻る )を書いていて。今回、1年通じて得意なものにも不得意なものにも触れた結果、自分が「くだらなくない」と思うものを信じられるようになったことが、地味に個人的には収穫で、誰かに何か言われることに怯えることなく、好きなものに全力投球していいんだっていう気持ちになれたら目の前が晴れていくような気がして、やりたいことがあるようで定まっていなかったわたしにとって、本当に、出会うべくして出会った、必要な機会だったと思います。
そして面白かったのは、すごい人たち(=ゲストの人たち)は、みんな知り合いだったりすること。業界も仕事もかぶってないのに、普通に友達だったりして、高崎卓馬さんがおっしゃっていたように、「登山し続けていると向こう側から同じように登ってきた人に出会える」んだろうから、やっぱり頑張り続けるしかないなあと思いました。
なんかもっと感動的に振り返るのかしらと思っていたのに、プレゼンで全部言ってしまったので、淡々としてしまった。笑 4月から塾はない日々が始まるけれど、そこでまただらだらしてしまうと何も変わらないから、また何か課題を作って精進します。ふー。
今、第4期を募集中。
やる気さえあれば大変だけど楽しい日々になるはずなので、興味がある人はぜひ!