物語のなかをぐるぐる廻る

すきなものをならべていく

2016から、2017へ。

2016年が終わって、2017年が来る。
今年は冬休みが短く感じる。今日でもう終わりだなんて、なんだか信じられない。今年も、また1年を振り返ってみる。

2015年はとにかくぼんやりした印象で、何もなかった気がしたけど、2016年はとにかく派手な年だった気がする。

転職するのをやめた

あくまで一旦は、ということになるかもしれないけれど、これまで4年近くずっと思っていた「転職したい」を思わなくなった。
去年通っていてすごく楽しくて、まるでクリエイティブなことをしているような気になれた塾が終わって、そろそろ本当に転職しなきゃと思って受ければ「この年齢で未経験なら若い子を採る」と言われるようになった。エージェントから「同人誌でもいいから経験したと言ってくれ」と言われて、思いつめて恩師に縋ったら課題をもらって、それをきっかけにいろんなことを考えて、自分のこの境遇は自分にとってひとまずいいものだなとやっと思えた。
今の仕事はやりたいこととは違うけど、向いていることではあって、もし異動してうまく行かなくても呼び戻すと言ってくれる上司がいて、なんだかすごく恵まれてるなと。2年前くらいまでは凄まじかったブラックっぷりもかなり改善して今は無理もしてないし、しばらくいてみようと思う。

 

お兄ちゃんが辞めた

大好きだった職場のお兄ちゃんみたいな存在が辞めた。3月。本当にお兄ちゃんって呼んでいてよく「え、本当に兄弟…?」とか言われてたくらい仲が良かった人。わたしの職場でのモチベーションの8割だったのだけれど、あっさりと転職先を見つけて辞めた。
そうしたら不思議なことに楽になった。「辞めたいね」っていつも二人で言っていたのが、それを言う環境ごとなくなったら、そう思うこと自体が減った。言霊というか、集団心理みたいなものなのかもしれない。マイナスなことを言わなくなったら、やることやるだけだ、って思うようになった。今はたまにLINEとかで話したり、当時の仲間で集まったりできるから純粋に楽しい。

 

徳島と京都とバリとシンガポールに行った

2016年は4ヶ所に旅行した。チャットモンチーのツアーの徳島、それ以外は普通の旅行。シンガポールだけ、父に会うというのと母を連れてくというミッション付き。

https://www.instagram.com/p/BFB0tMvuTp_/ https://www.instagram.com/p/BJouMWRAvBZ/ https://www.instagram.com/p/BKzGb0fgJ2e/

どれも楽しかったけど、バリ島はお腹を壊して現地の病院行ったら39度以上の熱があって大変だった。体調ってこんなに悪くなるんだ!と思った。シンガポールでは仲良くない父親と案の定よろしくない空気になった。人は家族だからわかりあえるわけじゃない。

 

エステとジムに行ってみた

文字通り。エステはなんかあんまり信用してなかったんだけど、サロンによって結構違いがあることがわかった。ジムは、夏は結構余裕があってコンスタントに通えてたけど、体調崩した後一気に秋から忙しくなってなかなか行けなくなってしまった。おまけに今度わたしの好きなフロアがなくなるらしく、また余裕ができるまでいったん退会する予定。ずっと行ってるアンチグラビティは好きだから少しずつでも行く。

 

高額だけど愛しい買いものたち

今年は大きい買い物を結構した。 
ひとつは絵。大好きな笹倉鉄平さんの『ミモザ』。高校生の時に出会ってから、いつかお金を貯めたら絵を買うぞと思っていたのがようやく叶った。わたしがあまりにもずっと言っていたからか、一緒にいた母も「買えば?」と珍しく言ってくれたのが地味に嬉しかった。

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もうひとつは、きもの。亡くなった祖母がたくさん持っていた中からいくつか形見にもらったのだけれど、着付け教室も高くて、うーんゆっくりいいところを見つけて習おう、と思っていたら、11月中旬、偶然通りがかったきもの屋さんが奇跡的な出会いで、その場で洗える着物と帯や小物一式を買ってしまった。
洗える、というのが個人的には良かった。おばあちゃんの着物汚しちゃうな、みたいな心配なく着られるし、ポリエステルでも全然安っぽくなくて、とても素敵だったから。おだてられるままにトータルコーディネートしてもらって、すごくうきうきした。おまけに採寸してもらっての仕立てだから、おばあちゃんの大きい着物を苦労して着る感じじゃないし、嬉しい。

https://www.instagram.com/p/BOpkN0SAYTh/
なんとそれだけに終わらず、商売上手なそのお店が、新作が入ったり、フェアをやるたびに呼んでくれて、上質で可愛いものを見せてくれるから、その後もう1着買ってしまった。こっちはまだ仕立て中で届いてない。合計するとネイルスクール以来の高価な買い物……!恐ろしいけど、行くたびときめくから、いいことにする。早く苦労なくするっと着られるようになって、いろんなところに出かけたいな。

ちなみにそのお店は本当に痒いところに手が届く感じで、1回500円でマンツーマンの着付け教室してくれるし、そこで着物を買った人たちと行けるお出かけ会もあって、「着て行く場所ないし……」ともならない。すごいよ。好き。
やっぱりお金は、好きなところに使うのがいいね。ジムはやめよう!笑

 これ。DOUBLE MAISONはとにかくかわいい

 

ものづくり

着物とも若干関係して、今年のものづくり。一番大きいのは、染物を習い始めたこと。体験着付教室に行って、どうにも自分は、着ることもいいけど、着物そのものの方が興味があって、この布にはこういう柄が定番なのかな? 菊ってどのくらいの種類あるんだろう? みたいな、友禅、絣、紬、色々知りたいな、っていう工芸品への興味が強くなってしまって、ずっとやりたかった伝統工芸に少しでも触れてみることにした。

https://www.instagram.com/p/BNRhyvegJWe/ 

これがもうめちゃくちゃ楽しい。半年かけて1枚を染めるからまだまだ完成してないけど、どんな風になって行くのか楽しみだし、将来的には帯を染められるみたいだから、自分の帯を染めたいな。

あとは他にもものづくりちらほら。あみぐるみもレース編みもつまみ細工も初めてだったけど結構綺麗にできた!クチュリエ大好き。2017年はオリジナルも作れたらいいな。

https://www.instagram.com/p/BLXdBCfgxHm/https://www.instagram.com/p/BMqnRCygfwQ/

https://www.instagram.com/p/BN-ePNdAenK/https://www.instagram.com/p/BOV0ukHAQ37/

うつわにハマった

個人的にはきものやものづくりとも通じるものなのだけど、「うつわ」にとにかくハマった年になった。一番好きなのは「九谷青窯」だけど、他にも東京蚤の市でたくさんのかわいいうつわに出会って、たくさん買ってしまった! だいたい欲しかった形が揃ってきて、今は落ち着いているから、あとは本当にこれだと思えたものと出会ったときに買い足したい。
なんていうか、こういう素敵なものがもたらす時間や幸福みたいなものをわたしはすごく信じている。料理して、美味しいねって言って食べたい。

https://www.instagram.com/p/BMwHZMPg5Bg/ https://www.instagram.com/p/BLTM8HJAsoq/

映画がとにかくよかった

そして今年はこれがかなり印象的だった。全部で22本見たけど、本当にすごい作品にたくさん出会った。これはまた別に書いておく。やっぱり衝撃だったのはこの二つ。

今年一番お世話になったサービスは、TOHOシネマズのauマンデイと楽天ポイント連携かもしれない……。映画の日である1日、レディースデーの水曜日、TOHOシネマズの日14日以外にも、毎週月曜日1,100円。映画とにかく高いなって印象だけど、見に行ける日が多くて、水曜と月曜はあんまり予定入れないようにしてた。そして楽天ポイントで見られるから、実質無料な感覚。来年もいっぱい映画見るぞ。

 

たくさん舞台とライブに行った

映画だけじゃなく、ステージもたくさん行けた。

《演劇・ミュージカル》

  • イニシュマン島のビリー
  • その日のまえに朗読劇
  • キャラメルボックス「また逢おうと竜馬は言った」
  • キンキーブーツ
  • 娼年
  • 劇団バッコスの祭「水質調査官」
  • 劇団新感線「Vanp Bamboo Burn」
  • 同級生の旗揚げ公演
  • るつぼ
  • かもめ
  • あずみ〜戦国編〜
  • 23階の笑い
  • クリスマス・ワンダーランド
  • RENT

とにかく一番良かったのは三浦春馬さんと小池徹平さんとソニンさんの『キンキーブーツ』で、役者さんの存在感も歌のうまさもすごかった。あとは『イニシュマン島のビリー』ではとにかく古川雄輝さんに衝撃を受けた。話題作『娼年』もすごかった。まるでミュージカルの歌のように色とりどりなセックスシーンが出てくる。笑 松坂桃李さんもすごかったけど、応じる同級生の女の子もすごかった。

《お笑い》

お笑いは結構行ったことなかったコンビのライブに行けて良かった。ウーマンラッシュアワーとシソンヌがすごかった。シソンヌは絶対毎回行きたい。

《音楽》

奇跡的に嵐に行けた年。そして初の遠征でチャットモンチー@徳島。KAT-TUNが充電期間を発表し、清竜人25は解散発表という。Perfumeは幕張3日間全部行った。どれも全然違うブロックで、2日目と3日目は結構近くで見られて嬉しかったな。

《その他》

その他では、やっぱり長年の夢だった「THE ICE」。10周年だし!と気合を入れて大阪まで行って見た。大好きなバトルと真央ちゃんのペア。一度生で見たかったから大満足でした。

 

清竜人さんに惚れた

とにかく今年はこの人に振り回され、この人に救われた年だった。ほぼほぼ清竜人だけを聞いた1年だった。最初に出会ったのはこれで、

何この人やばいって思ってどんどん曲を聴いていって、一夫多妻制アイドル「清竜人25」だけじゃなく過去のソロにも辿り着いて、とにかくめちゃくちゃ好きだった。

25に関しては、コンセプトもすごいんだけど、発想だけがぶっ飛んでいるわけじゃなくて細部の作り込みがすごくて、何より竜人くんが作ってる曲がひとつひとつ本当に良くて、最初は何この人やばいだったのがどんどん「誰よりもかっこいい」になっていった。

とにかくハマりまくってインタビューもたくさん読んで、印象に残ってるのはこれ。

アホみたいなことやっといて寺山修司とか読んでるわけです、好きになるに決まってるじゃないですか。

竜人くんなら奥さん50人いてもいいから妻にしてくれ!って思ってしまうもの。笑
ただ、絶対この人相当気分屋だし、いつ25やめます!って言い出してもおかしくないから存在しているうちに追いかけて行かなきゃと思っていたら、本当に言った。

はあ。寂しいけど、あと半年。夫人たちにその後も会えるのかはわからないから、後2回のツアー両方行きます。
ソロも本当に良くて、出会って驚いたのはこれ。わたし3年前に気になってたみたい、覚えてるよこの曲、この人だったのか。

個人的にはソロ曲の中では、このAll My LifeとZipanguが好き。清竜人さんについてはいつかまとめて書きたい。


清 竜人 - Zipangu

 

 

さて、2016年頭に立てていた目標は。 

  • 仕事をいい加減どうにか変化させる →△本質的に変わってはない
  • 痩せる!(……)→△前よりは減ったけど
  • 旅行に行く →○
  • 新しい料理を10こ増やす →△10は増えてない。けど、週末にまた料理するようになってきた
  • 新しく行ったことのない人のステージを見る →◎シソンヌや清竜人25など。
  • 文章を書く →×

なぜか2015年の「きものを着る」をやった年になった。

そんなわけで2017年は、

  • 貯金する
  • きものを着る
  • 料理を10こ増やす
  • 活字本を20冊以上読む
  • 文章を書く

にします。またゆるゆると生き延びていこう。

2017年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

今週のお題「2017年にやりたいこと」

不思議な選択肢の話

今日は絶対超早く寝ます!!なんて言って会社を出てきたのに、ドラマ逃げ恥があんなラストを飾るから、何か書かずにはいられなくなってしまった。エッセイでも小説でもない、昔ブログに書いていたような私事を。

逃げ恥のドラマで何度も出てきたシーンが、最終回にもあった。抱きしめられた後、勇気を持って自分も腕を回す瞬間。そもそも先に抱きしめている人もそのはずなんだけれど、抱きしめてもらった後でさえ、自分の意思を示すことってすごくすごく勇気がいる。

この間、久々にわがままを言った。堂々としたわがままではなく、思わず逃げ出したくなるような本音。言うときに一歩相手に近づくのが、本当に怖かった。

そんなわがままを言ってまで手にしたものなのに、正しかったのかは、全然わからない。将来後悔する可能性は否定できないし、自分より、相手に後悔させないだろうかと思うと、不安になる。誰かをがっかりさせていやしないかと、それだけが気になる。

何が正しいのかわからない場面は、きっと違うところでまた出て来る。次の選択でも、その次の選択でも、そんなことばかりなんだろうと想像する。だけど、決めてしまって、やってみないと、良さも悪さもわからない。経験する前に、幸せか不幸かなんて知れるはずない。だから、仮面浪人のつもりで入学した大学を愛したように、臨機応変に、自分の状況を分析して、我慢せずに素直でいて、挑戦していくしかない。そのための指針を持っていることが、わたしのちょっとした長所ではなかろうか、と思っている。

困った癖があっても、苦手なことが多くても、落ち込むことがあっても、思うように稼げなくても、傷つくような大病になってもいい。とにかく少しでも幸せになりたい。おこがましくたって構わないから、幸せにしたい。人を幸せにするなんて大層なことができるかと言うとわからないけど、そう思っていることだけは大事にしたい。

みくりが初めて自分の小賢しさから許されたように、ずっと相手にやさしくいたいな。何が刺さるのかは他人なんだしきっと外れるだろうから、できるだけ想像するようにする。言葉を並べてしまうのは悪い癖だし、わたしがあまりにも「幸せな方」「嬉しい方」と言うからうるさく思われていそうだけれど。

お土産を買う相手を失いたくなかった。不思議な選択肢から、好きな人といることを選んだ。なんて言いながら、数ヶ月後には全然違う気持ちかもしれない。先のことはわからないよね。

自分一人で完璧になるのは全然難しいことじゃないけど、相手が存在すると、いきなり難しくなる。一歩一歩を適当にできなくなる。そういうステージに立ちたい時期に来た、と思う。最初はそれが叶わないんじゃないかと思ったけれど、形が想定外だっただけだった。

人生は短いから、できるだけ愛情のある時間が流れますように。

どんなモテメソッドも敵わない、いちばん確かな優しさのかたち『富士山さんは思春期』

ハラハラドキドキのバトル、どんでん返し、謎が謎を呼ぶミステリー! そういった起承転結の激しいストーリーがなくても、私たちを魅せてくれる表現がある。ひとつひとつのコマの持つ意味にときめいてしまう、じっくり、じんわりな青春未満を描いた『富士山さんは思春期』(全8巻)だ。

中学生の男女ふたりがつきあって、学校生活と四季を過ごした、それだけの話なのだけれど、これが全く飽きることなく、ページを捲る手が止まらなくなる。

富士山さんは思春期 : 1 (アクションコミックス)

人気の可愛い女子の着替えを覗こうと無茶をしたカンバが見てしまったのは、身長181センチもある大きな女子、富士山牧央の下着姿。女子として見ていなかったのに、その日からドキドキが止まらない……。勢いに任せて「付き合わね?」と言うと、富士山さんもOKしてくれて、ふたりの彼氏彼女としての毎日が始まる。 

一瞬一瞬の描写が、汗のはりつく感じや距離が近づいたときの熱まで感じそうなみずみずしさ。中学生のカンバの目線で描かれているぶん、若干のエロ目線はあるものの、とっても爽やか。

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(1巻46ページ)

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チラッと見える背中とお尻(1巻159ページ)

最初はこの視点のリアルさや、描写の健康的なエロさが魅力なのかと思っていたのだけれど、この作品はそれだけじゃない。本当にすごいのは、富士山さんとカンバの個々の特徴が全編に滲み出るように描かれていることだ。

富士山さんは、待ち合わせ場所にされるほど大きくて、バレー部のスーパースター。それに対して、カンバはどちらかといえば小さくて、顔がいいわけでも部活で活躍してるわけでもなく、何かに熱中しているわけでもない、平均的な中学生男子で、スペック的特徴はあまりない。そのカンバが、富士山さんとつきあっていくために、相手の特徴のこと、相手の気持ちのことを、「女子」という大きなくくりでも、モテるためのマニュアルでもなく、必死に考えていく。

「大きいね!」と声をかけられたときに、心配してチラリと表情を伺う。
映画もボウリングも服選びも体が大きくて楽しめないと言われたから、帽子をプレゼントに選んでくる。
幼少期、滑り台で遊ぼうとしたら「小さい子に譲りなさい」と言われたと聞いて、相合傘を持とうとする。
立派なお寿司を見て出せずにいた差し入れのおにぎりを「腹へった」と食べる。

自分が取れない高い場所にあるものを富士山さんにとってもらう時なんかは、カンバも悔しそうにするけれど、彼は自分が負けて嫌だからというよりも、何倍も何倍も多く、常に富士山さんを気遣っている。それが押し付けがましくなくていい。一緒に楽しみたい、好き、そういう混じり気のない気持ちが根底にあるからこそ、地に足をつけて優しい。

最初はカンバも、同級生に「富士山はナイ」「女じゃない」と言われて好きになることをためらっていたけれど、一度彼女と向き合った後の彼は、なんのスペックもなくても、本当に本当に、世界一かっこいい。相手の状況や気持ちを考えて行動する、それひとつだけで、優しさが行動になるんだなと思える。車道側を歩こう、プレゼントは喜ぼう、すごーいって褒めよう、毎日好きだって伝えよう、そんなふうに教えられてやることなんて、きっと本当に伝わるものではないのだ。

 

一緒にいたいと思うふたりの過ごすピュアな時間と、日常に隠れた喜びは、ひとつひとつのときめきがすごい。同級生たちと花火を見ながらこっそり繋いだ手や、一緒に委員会に入ろうという約束。合宿でベランダとベランダで少しの時間だけ話す夜。どのシーンも捨てがたい。
一緒にテスト勉強したところが出るとテスト中に「あっ」て思う。

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(2巻142ページ)

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(4巻46ページ)

もらった絆創膏が濡れないようにお風呂に入る。

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(3巻153、158ページ)


こんな時代あったなあ!あっただろうか!! あった人もなかった人も、このふたりには思わずほっこりするはず。わたしの中では確実に殿堂入りの作品だ。

お話は中学3年生の夏で終わるが、中学生の恋は、ほとんどが大人まで続かない。そんなことをチラリと考えてしまいつつ、このふたりがいつまでも一緒にいてくれたらいいなと思うし、きっと、お別れが来てもふたりらしいやりとりがあるんだろうなと思うと、それも思春期かあ、と思ったりする。8巻読み終わる頃にはすっかり、どこかで生きているような気がしてしまっている。

まだの方はぜひ!

作者・オジロマコトさんの今の連載はこちら。 

 

この夏のわさび活動が大変満足だったことを報告します

小さい頃から「好きな食べ物は?」と聞かれるたび困っていた。 トマトは好きだったけど、一番か? と聞かれると困ってしまう。我が家では誕生日に好きなものを作ってもらえたけれど、弟がいつも「餃子」と即答する中で(もはや途中から聞かれてすらいなかった)、わたしは毎回困りに困り、「一番でもないんだけど」と思いながらハンバーグなんかを頼んでいた。

そんなわたしが、大人になって気づいためちゃくちゃ好きなものが「わさび」だ。わさびの味の商品を見ると健康も何もかも度外視して即購入する。この夏はわさび味のものがすごく増えてとても充実した日々だったので、それを羅列しておく。どうか来年も出ますように。

 

かっぱえびせん わさび味

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普通のかっぱえびせんも美味しいけれど、それ以上にやめられないし止まらない。

 

夏ポテト わさび味

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最高。

 

和びーの わさび塩味

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株式会社 東ハト/商品カタログ/ビーノ

普段からビーノをよく買うわけではなかったのに、2回も買った。

 

ハッピーターン 大人の梅わさび味

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32g ハッピーターン 大人の梅わさび味|ハッピーターンスペシャルサイト

言っても太りたいわけではない。そんな時にちょっとの量で売っているのが嬉しい。他にあまりない梅との組み合わせも嬉しい。最高。

 

ファミリーマートおむすび あおさご飯 わさび海苔

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www.family.co.jp

わたしは、ご飯がわさび味でお菓子もわさび味でもいい。最高。

 

最後に、期間限定ではない、わたしの中で殿堂入りしているわさびのお菓子を紹介する。

わさびふわり

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わさびふわりチーズ | あられの松福

わさびふわり 1ケース 12袋入り

わさびふわり 1ケース 12袋入り

 

これは口あたりもよくておせんべいも美味しくてチーズとの相性もよくて、食感も辛味もまさに「ふわり」という感じでめちゃくちゃ美味しい。近所に売っていればいいのに。知っている限りでは巣鴨の駅のお菓子屋さんにあるので近所の方はぜひ。

 

あと2、3点はわさびのお菓子をたべた気がするので、全部記録しておかなかったのが残念でならない。
大人になって、食べ物にも「目が無い」というものが出てきた。わさびの他は、茄子とキウイが該当して、含まれるメニューがあると気がつくとそれを注文している。そうすると楽しくなる。自分の機嫌を操れるって最高だ。夏以外もわさび商品が少しでも出ますように。

大雑把女子と童貞男子の不毛な、いや、実りあるバトルに注目!『カレは女とシたことない。』

作品を構成する要素がパズルのようになっているとしたら、そのすべてが妙にかちっとはまるみたいな、気持ちの良い作品にたまに出会う。こんなこと言うのはおこがましいかもしれないけれど、それは作品や著者と「気が合う」みたいな感覚で、私にとって都陽子さんはそんな著者のひとりだ。好きすぎて毎回新刊を楽しみにしている。

今回紹介する『カレは女とシたことない。』は、32歳でお見合いをしたら相手が同級生の童貞だった、という話。タイトルも帯の「お見合い相手は32年間チェリー様。」も煽っている感じだけれど、それとは裏腹に、中身は誠実に人と向き合うコツが見えてくるハートフルな(?)作品だ。

カレは女とシたことない。 (Feelコミックス)

32歳で焦って婚活を始めた亜希子がお見合いで出会ったのは、学生時代にイケメン御三家として扱われていた市原くん。一度会ったあと水族館に誘われて行くのだけれど、そのときの衝撃シーンがこちら。

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(11ページ)

「まねっこ」……!!!!
次のページで亜希子も「えええかっわ…!!」と言っている通り、この嫌味のないナチュラルに天然でかわいい男子、たまにいるんだよ……! とのっけからくらくらします。そして大抵の女子が発する「かわいい」はすべてのほめ言葉の総称なので、ぐいぐい魅力的に感じるわけです。そのあとも食事に行き、やっぱいいなあ、この人と一緒にいたいなと思い始める亜希子ですが、ここで問題の告白が訪れます。

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(16・17ページ)

ええええ〜〜〜〜〜!!!
でも亜希子からすれば、実は女がいるとか無職とかより、あははと笑ってしまえることだったよう。意外に男性側が気にしてるだけで、驚きはするけど気にしないという人は多いのではないかと思うけれど、ともかく市原くんは明るく笑ってくれた亜希子に救われて、ふたりの交際がスタートします。

 

8年間彼氏がいなかったがさつな亜希子と、優柔不断で童貞の市原くん。交際が始まったからといって、そこでめでたしとは当然ならない。そこで登場する市原くんの家族が、また曲者ぞろい。美人で料理上手な女性として兄といちゃいちゃする妹・聖(実は男)に驚いただけでは飽き足らず、実家で出会うお姉さんと母親が亜希子の一挙一動にずばずばと難癖をつけてくる……。

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(30・61ページ)

こういうところのあるある感、この家族が出てくることで、市原くんがなぜ今みたいに気弱に育ったのかがわかるし、なぜ聖がお兄ちゃん子なのかも分かる。登場人物同士の性格の噛み合いがものすごいはまり方で、都陽子さんの作品の一番気持ちいいところだと思う。

ふたりは色々な問題を一つずつ超えていくのだけれど、一度大きな喧嘩が訪れます。そのときの亜希子の台詞が、「そんなんだから今まで童貞なんじゃん!」……! 自分が許容できるかどうかとは別に事実として「童貞」はあって、細かな言動のひとつひとつが結果にもつながっているというこのつらすぎる一言。すぐに亜希子にもブーメランが返ってくる。

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(94ページ)

ただ単に彼がイケメンなのに童貞でした、という話ではなくて、それにはやっぱり理由があるし、自分とその人が一緒にいようとしていることにも理由がある。喧嘩でふたりが発する言葉が性格の違いもよく表していて読みながら「うわぁ…あるあるあるある……」となること必至。そのあとふたりはどうなるのか、8年彼氏がいない大雑把女子と優柔不断童貞男子の不毛な、いや、実りあるバトルに注目。こういう人ってこういう服着てるとか、そうそうこういう仕草する! とか、フィットする感覚が心地よくてどんどん好きになってしまうので、全編通してディティールを是非見てほしい。

 

個人的には、この漫画の本編のあとに収録されている番外編『まだ聖くんだった頃』が良すぎて即ノックアウトされた。漫画ではときどき、この一言が、このワンシーンが、この表情が忘れられないという瞬間に出会うけれど、居酒屋で鏡に向かう聖の表情の艶っぽさがものすごく綺麗。ばかみたいでも、非現実的でも、恋するっていいなあ! 聖が亜希子の弟を、恋というより「信頼」した瞬間の描き方がすごく自然なのに鮮やか。1巻完結で番外編も同時収録なので、最後までぜひ!

カレは女とシたことない。 (FEEL COMICS)

カレは女とシたことない。 (FEEL COMICS)

 
カレは女とシたことない。 (Feelコミックス)

カレは女とシたことない。 (Feelコミックス)

 

こちらも1巻完結。おすすめ。

地下アイドル、職場の男にバレまして (FEEL COMICS swing)

地下アイドル、職場の男にバレまして (FEEL COMICS swing)

 

現在連載中の作品。続刊あり。

わたしはあなたの犬になる(1) (FEEL COMICS swing)

わたしはあなたの犬になる(1) (FEEL COMICS swing)

 

 

映画『怒り』を見て取り憑かれたように考えたこと

映画『怒り』を見てきた。10月2日日曜日のお昼、歌舞伎町奥のTOHOシネマズ新宿で。クライマックスのところでは自分の心臓の音が手を当てずとも分かるほど緊張したし、エンディングの頃には浅い呼吸しかできなくなって、川村元気とか坂本龍一とかのクレジットを見ていたら胸が詰まって吐き気がしてきた。中身がグロいとかじゃない。空気と、重みと、熱のせいだ。人酔いしたみたいにうっすらとした気分の悪さ。

気分が悪いとか吐き気とか言ってしまうと、駄作と誤解する人もいるかもしれないけれど、決してそういう意味じゃない。力のある人たちが集まって熱に浮かされながらものを作るとこんなものができてしまうのか、と思った。迫力も質感も圧倒的に高度だった。今年は『リップヴァンウィンクルの花嫁』と『シン・ゴジラ』で二度も圧倒的にすごいと思わされたのに、そのふたつとはまた全然違う座標で一番印象に残った作品になった。歌舞伎町を抜けて駅に行く間、ずっと呼吸を浅く細かく繰り返しながら、誰とも目が合わないようにして歩いた。身体に変な力が入っていた。

これから書くことはどうしたってネタバレなしにできそうにないから、これから見る人は読むことをお勧めしない。

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東京、千葉、沖縄。3箇所で素性の知れない男と出会った人たちは、彼らと関係を深め、やがて、夫婦殺人事件の報道により、少しずつ犯人に似た特徴を持つ彼らのことを「本当に信用できるのか」と疑っていく。目の前にいる人から感じる優しさや温度は確かに本当に思えるのに、信じることができない。そのことについてずっと終わった後考えていた。ご飯を食べていても、運動をしていても、歯磨き中も、気づいたらあらゆるシーンを頭で反芻していて、信じられることと信じられないことに頭を巡らせていた。

千葉の愛子(宮崎あおい)は、恋人となった田代(松山ケンイチ)を疑い、警察に電話をかける。宮崎あおいさんが震えながら吼えるように泣くシーンはすごかった。彼女はとてつもない大きさの安堵と後悔を同時に感じて、何も喋らずに大声で泣いた。その投げ出された脚や全身で訴える様子を見ながら、小説や脚本にもないであろう身体のすべての動きを演技でつくりあげるのってすごいことだと思った。彼女は恋人を疑って通報するけれど、結果は白。家宅捜索の結果、恋人の指紋から身元がはっきりすることとなった。
愛子は田代を信じなかったけれど、父である洋平を信じたとも言える。もちろん、自分自身が最後まで恋人を信じ続けられなかったというところが本人にとっては大きいだろうけれど、愛子には他に、意見を参考にしたいと思うような、気持ちを変えられてしまうような、信じるべき人がいたということだ。

もし、この結果が黒だったら、ということを何度も考えた。あの瞬間、愛子と洋平は全身で恐れていた。黒であっても白であっても怖いという場面だったはずだけれど、万が一、黒で、警察が重い顔でそれを伝えたならば。あっという間に、自分の行動は肯定されて、楽しかった日々も薄ら寒いものに変わる。もう姿を消していて連絡がつかない恋人を、きっと、まだ居座られているよりよかった、と思うはずなのだ。凶悪殺人犯が自分たちの元を去った、と。警察が「彼は違う」と言う瞬間まで、愛子も洋平も、そして見ているわたしたちにも、田代は灰色に見えていて、とてつもなく不安だった。黒だったパターンもありうるのだ。小説だからそうも作れただろうし、小説だけではなく、現実でもある。同じ状況にもし現実で遭遇したら、愛子の行動はとても正しい。黒ではないということを知らなければならない。だって、次の日に自分の部屋で事件が起きるかもしれない。そう思うとぞっとする。ぞっとさせるだけのリアリティがこの作品にはあった。

愛子も、洋平も、疑った自分をどこかで後悔しているのかもしれないけれど、疑うことは悪いことではない。大事な人を信じられなかったと自分に思うのは、あくまで結果論なのだ。素性のわからない人間を簡単に信じてはいけないのは、犯人の行動がすべて物語っている。道を聞かれるでも、家に入る業者でも、ナンパでも、そのすべてを疑うのも寂しい気もするけれど、疑ったほうが安全だということだけはこの映画がよく示していた。

 

東京で出会うゲイカップル、優馬妻夫木聡)と直人(綾野剛)は、千葉編とは少し違う結末を迎える。身近で起きる空き巣事件などからだんだんと直人への疑いを深めていった優馬は、直人が姿を消した後の警察からの電話で、殺人犯に関する調査だと思い込んで直人が残したものをすべて処分する。電話でも「知らない」と答え、切ってしまう。それでも直人を探し続けて、彼がすでにこの世にいないことを知る。
このふたりの恋はなんの危険性もないただの恋だったから、優馬に残るのは、千葉編よりももっと爽やかな、彼を信じてやれなかったことへの後悔だ。警察からの電話はおそらく倒れていた直人の身元確認等だっただろうし、形見をすべて捨ててしまったあとだった。よくよく考えれば殺人の調査であれば電話を「知りません」で切っただけでその後何もないということも考えづらい気がしてくる。すべて分かったときにはもう彼には会えなくなっていて、家族のいない彼が、隣の墓に入りたいとつぶやいていたことを思い出す。千葉編での緊迫感は「大事だろうが疑わないと危険かもしれないぞ」と思わせるには十分だったのに、今度は「大事なら大事にしないといつ会えなくなるかわからないぞ」と言われた気がした。

 

そもそも、見ず知らずの人を信用するには何が必要なんだろう。高校のクラスで初めて一緒になった、引っ越したら同じマンションだった、など、これまでもたくさんの「知り合う瞬間」があったはずなのに、そのあといつその人のことを信用したのか、案外わからなかったりする。
同じ学校・会社だから大丈夫、という安心感はかなり高い気がするけれど、同級生や同僚が何か犯罪を起こさないとは限らない。知らない人をはかるものとして職業はすぐに出がちで、「何してる人なの?」に対して企業名が返ってくると安心する人は多いけれど、合コンで出会った人が出してきた名刺が本当なのかは、実はその瞬間には判断のしようにない。色々な場面や第三者のいる場面でその人を見て、どういう表情で、どういう言葉で暮らすのかを見ていかないと、きっと実はわかっていないのだ。信頼への道のりを本当に遠く感じた。ステータスよりも自分が見たものが大事だとも思うし、なにも所属を持っていない良い人というのも不安だ。対自分ではなく、他の誰かとどのくらいどんな関係があるのかを知っていくことでしか、きっともう安心できない。

 

普段いかに簡単に人を信頼しているかも思い知ったし、いちいち疑っていたらきりがないという気持ちもある。接する中でしか信頼はできないから、完全に安全とわかるまで接しない、ということはできない。そんなとき、「怒気」はすごく参考になるかもしれないと思った。怪しい男として登場した3人のうち、犯人が分かるまでに暴力性を見せたのは沖縄編の田中(森山未來)だけだった。おそらく犯罪でも、万引きと傷害にはかなりの距離がある。人を殴ったり蹴ったりすることって怖いし、ものでもなんでも「壊せる」というところにまで辿り着くのは、またいくつか段階が違うのだと思う。できる人にはできてしまうことだけれど、できない人からするととんでもないことに思えるのが暴力だ。スーツケースを投げるでも、厨房のものを割って回るでも、田中には暴力性と怒気があった。それを見たら、深追いをしない。その判断を常に意識するのは、自分や大切な人を守ることに繋がるかもしれない。

辰哉は深追いする。行かなければいいのに、また田中がいる島に行って、二人きりになる。あのときは見ている誰もが「なんでそんな危険なところに一人で行くんだよ!」と思ったに違いない。絶対に何かが起こるという緊迫感があるのに、辰哉はそんなこと想像もしていない。なんだか様子がおかしかったけど、島に行って会えるなら会いたいと思っている。犯人ではない東京と千葉では疑う心を描いていて、犯人のいる沖縄では疑わない心を描いている構造にめまいがした。無心に信じている相手が殺人犯だなんて、思いもしない。東京と千葉が報道の犯人像に脅かされるのに、沖縄はちらっと一瞥しただけで、頭から消してしまう。その様子があまりにも日常らしく想像できてひやっとした。人は一度信じたら疑わない、という部分。疑うどころか、沖縄にいる人たちは最後まで彼が殺人犯だったことを知りもせず、辰哉と田中の関係も、殺人事件とは無関係なところで変化していく。

そのあまりにも完璧で緻密な構図に舌を巻いた。「信頼した人を殺人犯かと疑う話」だったら、沖縄編に疑いだけ付け加えれば書けたのだと思う。あるいは、千葉か東京の結末を犯人にしてしまえばいい。でも、吉田修一さんはある意味いらない千葉と東京を描くことで、信じることがいいとも悪いとも言えない物語を作っている。それによって『怒り』はただのミステリーではなくなっている。逆に、ミステリー的な要素で田中を疑っているのは観ている者だけだ。交わることのない舞台が3つも描かれていることの狙いを思うと、頭が疲弊してどっと疲れた。しかも、ダミーはひとつでも成り立つのに、3つあるというところが憎い。相手を疑っていくヒントになった現象や、迎える結末の違い。見ている一人一人が誰かを信じることや疑うことを選択したとき、迎える未来のパターンをいくつもちらつかせてくる。そこにくるのは安堵かもしれないし、後悔かもしれないし、危険かもしれない。すごい映画だったし、すごい物語だった。

 

俳優のみなさんの演技が本当にすごいのだけれど、沖縄編で泉を演じた広瀬すずさんも圧巻だった。『ちはやふる』でもすごいと思ったけれど、今回はまた全く違う顔。特に駐在している米兵にレイプを受けるシーンがすごかった。表情、涙、動きが止まる瞬間。心が壊れていくのが見えた気がした。物語の終わりを結ぶ泉の咆哮も強く印象に残った。海に向かって叫ぶ、とト書きしてしまうと安っぽい青春ドラマみたいだけれど、泉の叫びはもっともっと、口に出さなかった言葉をたくさん含んだ、重くて黒い、力のある叫びだった。
綾野剛さんの存在の柔らかさと独特な色気もすごかったし、一瞬だけ登場する高畑充希さんの目の強さと存在感も残った。坂本龍一さんの音楽、そして、これも川村元気さんのプロデュース。くらくらする。この豪華なキャストとスタッフで、明らかに高い熱量で作られた作品。たくさんの人に勧めたいけどしばらく2回目は見たくない。

 

すべてのメインのキャストのインタビューが読めるパンフレットが本当にすごい完成度で、言葉の選び方や語り口が美しくて、おすすめ。文字だらけだけれどあっという間に読める。朝井リョウさんの寄せた文も美しくて感動した。

文庫も、今は期間限定の幅の広い帯で、帯の裏にはインタビューが印刷されているので、書店でもぜひ。

怒り(上) (中公文庫)

怒り(上) (中公文庫)

 
怒り(下) (中公文庫)

怒り(下) (中公文庫)

 
「怒り」オリジナル・サウンドトラック

「怒り」オリジナル・サウンドトラック

 

 

『夕暮れライト』みたいに、帰りたい家があるっていいな

ごくごく普通のなんの変哲もない家に生まれて、わたしにとって家は、「帰りたい場所」だったかというとそうでもない気がする。むしろ、学校とか遊びとか、「行きたい」の気持ちの方が圧倒的に強くて、思い入れのほとんどは家の外にあった。今の一人暮らしの家は大好きだけど、「誰かがいる家」とはやっぱり違う。
夕暮れ時になって、日が沈んできた町に、ぽつぽつと家の灯りがともる。それを見ていたら帰りたくなる――そんな瞬間をテーマに書かれたのが宇佐美真紀さんの『夕暮れライト』(全5巻)だ。

夕暮れライト(1) (フラワーコミックス)

父親が再婚を考えている相手が住むマンションに引っ越してきたちなみは、再婚相手の娘・和音と、和音の隣に住む相馬兄弟に出会う。再婚相手と和音を家族になれる人なのか見極めようとするけれど、逆に相馬兄弟がちなみのことをリサーチしてくる。

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和音を守るために警戒する相馬兄弟(1巻69ページ)

はっきりものを言う性格で一人になっていたちなみと、控えめで大人しいせいで一人でいる和音。余計な仕事を押し付けられていた和音を守って啖呵を切ったちなみに、和音は惹かれていく。強がってなかなか素直になれないちなみも、和音と姉妹になることを嬉しく思うようになる。相馬兄弟も和音を守ったちなみのことを認めていって、4人は微妙なバランスの中で仲を深めていくけれど……。

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啖呵を切るちなみ。こういうこと言ってしまうのが分かる人には絶対ささる(1巻49ページ)

 

いきなり、この間まで知らなかった人と家族になるのは、簡単じゃない。恋をするのも、簡単じゃない。うまく言えない言葉や、傷つけないために飲み込んだ気持ちがあって、そんなとき、隣にいてくれたことは、きっと、その人を信頼するには充分だ。

日が沈むまでただしゃべったことや、教科書に落書きしあったこと、同じ音楽が好きだったこと。手をつなぐとか抱きしめるとかそんなことしなくても、その日の嫌なこと全部ふきとばすくらい嬉しい小さな瞬間があったことを思い出す。宇佐美さんの描くときめきは丁寧でとても好きだ。

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雄大との河原。(1巻43ページ)

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奏多との河原。(3巻96ページ)

柔和だけれど陰のある兄の奏多、強くて優しい弟の雄大。タイプの違う兄弟に振り回されながら読むのもやっぱり少女漫画の醍醐味。恋愛がどうなっていくのかはここではネタバレしないけれど、宇佐美さんの描く絵は品があって綺麗で、男の子には上品な色気があって、腕や手とか、大雑把にきたTシャツまでかっこいい。

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少女漫画のときめきってやっぱり絵も大きい(1巻124ページ)

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扉絵は本当にどれも可愛い、この手最高だ(2巻6話扉絵)

 

誰かに会えるから、家に帰るのが楽しみになるのっていいなあ。きっと悲しいことがあっても、またちゃんと帰りたくなる。隣にいてくれる誰かが、自分の大好きな親友と頼りになる男の子だなんて最高だ。ほっこりして、時々じんわり涙がにじむ。これからの空気がひんやりしてくる季節、ほっとしたい人はぜひ。 

夕暮れライト 1 (フラワーコミックス)

夕暮れライト 1 (フラワーコミックス)

 

インテリ男子が好みの方には宇佐美さんの『ココロ・ボタン』もおすすめ!