物語のなかをぐるぐる廻る

すきなものをならべていく

恋ってこんなにいいもんだっけか。(『これは恋のはなし』)

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これは恋のはなし(6)

6巻の表紙が一番すきです、チカさんの『これは恋のはなし』。

最終11巻が7月に出て完結だったのですが、電子が出たのが8/1だったのでちょっと遅れての紹介になってしまいました。はやくサイマル配信が当たり前になってほしい…!

 

“ふたりが結ばれても結ばれなくても、これは恋のはなし。”

あらすじで使われているこのフレーズに読んでる途中で出会って、ずっと頭を離れませんでした。恋って、認めることから大変だ。結果どうなるかわからないし、怖いことだらけだけど、それでも、どんな道すじと結論でも、それが恋だってことだけは揺るがせなかったりする。このお話は、このフレーズがくれる妙な安心感と切なさが詰まった物語です。

ハードボイルド小説で売れっ子となっていた31歳の小説家・内海真一がスランプになって始めた田舎での一人暮らし。その一軒家に、10歳の少女・遥が猫を飼いたいと出入りするようになるところから始まります。小説を書けなくなっていた真一に担当編集者で幼馴染みの大垣が提案したのは、なんと遥をモデルにした恋愛小説。そんなとき、遥が真一のことを好きだと言い出します。一緒に過ごしていくうち、ふたりの関係は少しずつ変わっていって……。

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「真一さんのことが 好きなんだと思います……私」(1巻76ページ)

歳の差21歳。わたしはもともとそんなに歳の差モノが好きだ!ってわけではなかったのに、これはすごくすごく良かった。ただ好きとか大事だとかだけじゃなくて、子どもたちの親も出てきて世間の見る目とかまで描かれているから、ただ萌え!きゅん!みたいな話で終わっていなくて、ものすごくリアル。ほんとに隣町とかで、こんな家があって、不思議な出会いがあって、大事な大事な人間関係が築かれていってるんじゃないかって気がしてくる。

大垣と同じく真一の同級生のサトミ(元男)と、遥の同級生の杉田と詩子も加わってどんどんにぎやかになっていった家がすごくよくて、お話の流れにまったく無駄がないのに、そういう何気ないシーンがものすごく脳裏に残る。ずっとこの空間がこうであってくれたらいいなあと思ってしまう。出てくる人みんなを好きになって、一緒に見守りながらはらはらしたりほっとしたりして、それでいてときめきももらってしまうの、読者が得なポジション過ぎてどうしようって思いながら読んだ。

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(6巻138ページ)

そのときめきの大きな要因のひとつがチカさんの絵。きれいすぎる…! 適当な堕落した生活してる「しょーもないオッサン」に全面的に同意なのに、内海先生はかっこ良くてすごい……。もちろん外見だけじゃないんだけど、ときどきほれぼれして見てしまいました。おかしいな、わたしはいつももっとかわいい感じのキャラクターを好きになることが多いんだけど…(もごもご)。サトミと詩子と遥が全然違うタイプの女性として描きわけられているのもすごいし、何より、約18年間(明確には言われていませんがたぶんそのくらい)の成長の描かれ方がすごい! 特に遥を好きになる杉田くんの成長っぷりが、大きくなって登場するたびどきっとさせられてしまって焦りました。かっこよくなっちゃって……!

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杉田くん小学生→中学生→高校生(2巻96ページ/6巻115ページ/9巻142ページ)

 

その成長含め、長い時間を描いた作品になってることが、本当にこの物語の説得力だなあ。真一と遥の関係の変化はほんとに一歩一歩で、だけど、その全然都合よく進まない感じがあるからこそ、信頼ができていく不思議。

 

それにしても、大垣さんが、何かと途中で面白がって、かき回していくのが本当に酷い!(ほめてる)

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(2巻15ページ)

純粋な小学生の女の子を恋愛に焚き付ける鬼畜さだけでなく、しょっちゅう内海先生のこともトラップにはめています。そんなおちょくるような行動ばかりの大垣さんですが、内海先生を小説を書くことへ導くときの本気な空気がものすごくかっこ良くて、ここが全編の中で一番好きなシーン。わたしはリアリティを突きつけてくるフィクションが好きなので、この台詞自体の説得力もすごくて脳の後ろのあたりがざわってした。「恋のはなし」とは直接の関係はないけど、仕事する大垣さんは怖くてかっこいい。

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(7巻139ページ)

 

 

物語の最後では、遥たちが高校生のときから7、8年くらい飛んだシーンが少しだけ描かれるのですが、個人的にはその間が見たかったなあー! 照れたりかっこつけたりする真一さんが見たかった!!! いや、全体の構成としてはそこはカットのほうがいいのは承知したうえで、その間のイベントを全部覗けたら、ときめくエピソードがたくさんあったんだろうなと空想できるくらい、登場人物が生きています。もっともっと、見ていたくなる。蛇足でも、番外編があったらぜったい読みたい。

男性にもおすすめです。恋愛モノでしょでも、って人ほど手にとってみてほしい。だって、恋ほどどうにもできないものもない、ってところなんです。どんな大人だって最初から最後までスマートになんてできないって、冷静に考えるとすごいことだ。絶対どこかに抜けができて振り回される。このふたりにも、色んなつまずきやすれ違いや葛藤があって、それでも読みながら終始思っていました。恋ってこんなにいいもんだっけか。ぜひ。

これは恋のはなし(1) (KCx(ARIA))

これは恋のはなし(1) (KCx(ARIA))