あまり本を読まない中高生におすすめの日本の小説10作
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又吉さんの芥川賞受賞がものすごく話題になりました。
又吉さんご自身もたびたび「本を読むきっかけになれば」と言いながら本を紹介していますが、個人的にはそのラインナップがとにかくとっつきにくい!笑 『火花』も1ページ目から読めるのか不安になる紙面なのです。芸人さんが書いたから簡単かな、と思って手を伸ばした子たちが挫折してぱたりと閉じて本から遠ざかった…なんてことがないといいなと思っています。
そんな中、
azanaerunawano5to4.hatenablog.com
この2つの記事を見て、うわー楽しそう! と思うと同時に、難しいorとっつきにくくないだろうか? とも思ったので、わたしも紹介してみたいと思います。あまり本を読まない中高生におすすめの日本の小説、10作。
読みやすいこと、読書感想文なんかにも向いていること、それから読書全体への入り口として良さそうなものを選びました。
1.博士の愛した数式/小川洋子
内容(「BOOK」データベースより)
「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。
そういえば小川洋子さんも芥川賞作家のひとりでした。この本は映画化もされたので、聞いたことがある人も多いと思います。80分以上経過してから会うと自分たちのことを忘れてしまっている「博士」と、何度も出会い、ゆったり心を通わせる愛しい時間の物語。 小説の中に数学が出てくるのが面白いところ。
2.ぼくは勉強ができない/山田詠美
内容(「BOOK」データベースより)
「ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、りっぱなことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しいような気がする」―時田秀美は17歳、サッカー好きの男子高校生。勉強はからっきしだが、めっぽうモテる。発表から四半世紀、若者のバイブルであり続ける青春小説の金字塔。
この本はまさにバイブル。学生のころに出会ってよかったなと思える本です。最近、上に貼った文藝春秋のものが出ました。こちらは著者のメッセージが追加されてます。多くの人が馴染み深いのは下に貼った新潮文庫のほうでしょうか。勉強ができたとしてももてなかったら虚しい、と言い切る高校生の秀美くんがものすごく格好いいのです。明日からこんな風に魅力的に生きたい、と思えるきらきらした小説。
3.桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ
内容(「BOOK」データベースより)
田舎の県立高校。バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは…?瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。第22回小説すばる新人賞受賞作。
朝井リョウさんは『何者』がすごく好きなのですが、中高生におすすめするならこっち。大人になればたかだかって思うくらいのことでも、部活っていう小さな空間や、高校っていう閉じられた場所は、そのときの高校生にとっては世界の全てだったりする。誰かが「部活やめる」って言ったら、絶対そこにはなにかある。このタイトルだけで秀逸すぎる作品。
高校という世界が実に階層別だってことが鮮烈に描かれていて、すごいのは、その上のほうにも下のほうにも触れていること。体育の時間、ひたすらボールを追いかけるように走っているだけになる映画部男子。「創作ダンス」のグループ分けの瞬間、頭をフル回転させる女子たち。ダサい、と漏れる笑いや、「上」にいても感じるむなしさ。この作者はいったいどこから高校を見ていたのか、どの「階層」だったのか、読みながらそれを考えずにはいられません。
4.神様のカルテ/夏川草介
内容(「BOOK」データベースより)
栗原一止は信州にある「二四時間、三六五日対応」の病院で働く、悲しむことが苦手な二十九歳の内科医である。職場は常に医師不足、四十時間連続勤務だって珍しくない。ぐるぐるぐるぐる回る毎日に、母校の信濃大学医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば最先端の医療を学ぶことができる。だが大学病院では診てもらえない、死を前にした患者のために働く医者でありたい…。悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。二〇一〇年本屋大賞第二位、日本中を温かい涙に包み込んだベストセラー、待望の文庫化。
妻を楽しませたくて書いた、という言葉も納得の、優しさにあふれた物語。とても読みやすい作品です。医療ものは「泣いてください」というものや重いものも多いように感じるけれど、この作品はまったく堅苦しさも重さも感じさせず、それでいて真面目で真摯で、そのほどよい距離感がとても心地いい。 何かに傷ついて、また癒されて、お酒を飲んで、信頼関係を築いて、そうして暮らしている「イチさん」が、医者というよりは「ひと」として見えてくる。とても爽やかな読後感。
5.ぼくのメジャースプーン/辻村深月
内容(「BOOK」データベースより)
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった―。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。
犯人探しではない、ちょっと変わったミステリー。どこからが罪になるのか。それに対する罰としては、どんなものが妥当なのか。 事件の犯人に立ち向かおうとした「ぼく」が秋山先生という人と考えを深めていくシーンでほとんどが構成されているのに、ものすごいスピード感。連続で事件が起こったり、たくさんの人物が動きを変えていたりする派手さはないのに、気がつくと一緒に思考の深みに嵌っています。 日常で考えずに済んでしまっていることがこんなにも膨大に広がっているんだということに驚く本。 そして「考えずに済んでしまうこと」を物語にまで出来てしまう辻村さんの力量にも。
6.海の底/有川浩
内容(「BOOK」データベースより)
4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている!」自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜか「歪んでいた」。一方、警察と自衛隊、米軍の駆け引きの中、機動隊は凄絶な戦いを強いられていく―ジャンルの垣根を飛び越えたスーパーエンタテインメント。
まっすぐなエンターテイメント。自衛隊や船なんかが出てくるので、アニメとか乗り物とかが好きな人や、海猿みたいなストーリーが好きな人におすすめ。作者もライトノベルと一般文学を結びつけた方なので、テンション高く読めると思います。
最初のほうのエビが攻めてくる様子の描写から驚かされます。 異なる性格の自衛隊員ふたりのそれぞれ違った格好よさだったり、騒動の中での子供たちの変化や成長に目が離せなくなります。思わず登場人物を応援しながら読んでしまう、青春たっぷりの物語。
7.告白/湊かなえ
内容(「BOOK」データベースより)
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化! “特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
これは良くも悪くも衝撃作。全く明るい話ではないし、読後感も決して良くはないけれど、この「からくり」で物語が描かれたこと自体がすごい。
日記だったり語りだったり、ひとりずつの告白が6章分あつまってひとつの話をなしている作品です。 登場人物たちが、たとえ異常であってもそれぞれの論理からは一歩もはみ出さないことを言っている。どこかがおかしいのに、そのやたら筋道が通った感じが、 やけに人間臭くて、それがすごくいいです。ものすごく読みやすいけど、怖いのは苦手って人は要注意かもしれません。
8.花まんま/朱川湊人
内容(「BOOK」データベースより)
母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。それには、信じられないような理由があった…(表題作)。昭和30~40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6篇。直木賞受賞の傑作短篇集。
こちらは直木賞受賞作。芥川賞よりも直木賞のほうが初めて本を読む人、本が苦手な人には圧倒的にとっつきやすいのでおすすめです。怪奇現象と言ってしまうととたんにチープに感じる気がしますが、朱川さんの描くふしぎな世界は、怖くはないけれど「あいだ」を感じるような、妙な存在感があります。読んでいる自分もまるごと取りこまれているような、本から顔を上げると現実に帰ってきてちょっと呆然としてしまうような、そんな濃さ。
9.あなたがここにいて欲しい/中村航
- 作者: 中村航,宮尾和孝
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- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋―常に目立たず控えめな吉田くんは、さまざまな思いを秘めて大学生活を営んでいた。小学校時代の図書室での幸福感。小田原城のゾウ、親友でヤンキーの又野君、密かに恋心を寄せる舞子さん…。やがて、高校卒業後に音信が途絶えていた又野君と再会。2人に去来する思いとは。そして舞子さんとの恋の行方は?(表題作より)名作「ハミングライフ」を含む、新たな青春小説の傑作。
中村航さんはもっとも読みやすい作家さんのひとり。
表題作「あなたがここにいて欲しい」は、中村さんの『夏休み』という本に登場する“吉田くん”が舞子さんと恋に落ちるまでを描いたお話。決して器用なわけじゃないけれど、一歩一歩、何かを守ろうとして生きていくこと。『夏休み』を読んでいなくても充分楽しめます。
友人として出てくる又野君が、とてもいいキャラ。なんで仲良く出来てるのかわかんないくらい違う世界にいるのに、なぜか気になっちゃって、好きで、それでいて、なぜか向こうからも連絡をくれたりする。そんな友達、いるよなぁ。そして、そういう友達が大事だったりする。読んでいて心地よい爽やかな気持ちになれます。
単行本の方は、白基調の表紙に浮かびあがるような象と、その絵に重なる半透明なカバーに描かれた桜がとても綺麗。
10.陰日向に咲く/劇団ひとり
内容(「BOOK」データベースより)
ホームレスを夢見る会社員。売れないアイドルを一途に応援する青年。合コンで知り合った男に遊ばれる女子大生。老婆に詐欺を働く借金まみれのギャンブラー。場末の舞台に立つお笑いコンビ。彼らの陽のあたらない人生に、時にひとすじの光が差す―。不器用に生きる人々をユーモア溢れる筆致で描き、高い評価を獲得した感動の小説デヴュー作。
芸人さんの小説は又吉さんだけじゃありません。劇団ひとりさんは天才。話のオチがすごく上手いです。全然別のところで生きているように見える各話の主人公たちが、それぞれ一生懸命違った事情を抱えていて、その不器用さとあったかさが好きになってしまう、そんな小説です。それぞれの話がほかの話と少しずつリンクしているのも見どころ。世界はきっとこんなふうにつながっているんだろうな。この方は頭がよくて、日ごろから人を観察して多くのことを感じて生きている人なんだなぁと思います。尊敬。
以上10選。
まあ、中高生とひとくちに言っても中学1年生と高校3年生じゃ全然違うと思うのですが、比較的読みやすいものを選んでみたつもりです。こう見ると、本ってすごく期間の長い財産だなぁ。古いのも、面白いものは全然色褪せない。誰かに興味を持ってもらえたらうれしいです。