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現代版おとぎ話『心が叫びたがってるんだ。』を観てきた

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心が叫びたがってるんだ。』を見てきました。10月12日、TOHOシネマズ渋谷にて。
絶賛と疑問のふたつの声を聞く作品で、さぁどうかなーと思いつつも、高校ミュージカルものってことで、そこはすごく楽しみにして。

 

いちばんの感想は、「これは現代版おとぎ話だなぁ」だった。

おしゃべりが好きな夢見る女の子・順は、“お山の上のお城”が憧れ。入り口の前まで遊びに行っていたら、そこから出てくるお父さんを見て、無邪気にお母さんに報告します。視聴者には見えている「休憩」や「HOTEL」の文字。優しく笑っていたお母さんは絶句して、あっという間に家族が崩壊することになりました。出て行くお父さんを引きとめようとして「お前のせいだ」と言われた順は、話すことが怖くなって、「話すとお腹が痛くなる」という“呪い”にかかってしまいます。

……壮絶な始まり!!汗

確かにあの形は、幼い女の子なら何も知らずに「わぁ〜」って思ってもおかしくないよね……と、ラブホの運営をしてるわけでもないのに反省しました。それにしても、お母さんはともかく、お父さんがすごい。自分のこと棚に上げて「お前のせいだ」だなんて、トラウマにもなるでしょう。

ただ、この順ちゃんのトラウマの形はなかなか複雑で、そのせいで、じっくり考えるまで、わたしは彼女には全然共感できませんでした。いや、今も共感はできてないんだけど、細かな「作品としての」仕掛けの中では、結構生きてくる設定なのかもな、と思うわけです。

 

不幸な経験によって心に負荷がかかってしゃべれないっていう設定なのに、画面の中の順ちゃんからは、意外とそのトラウマを感じません。「言葉は人を傷つける」ってことが怖いのに、「声を出さない」だけでメールではがんがんしゃべる。すごいスピードでメッセージを携帯に打ち込んでいて、それだけしゃべりたいことがある人だってほうが印象的なくらい。文章だって声に負けず劣らず多くのことを伝えるわけで、誰かに何かを伝えることを怖がってる人には全然見えない。
彼女には伝えたいことがたくさんある。だからこそ、この映画はトラウマを乗り越える物語になるし、ミュージカルの脚本を書けてしまうほどの創作欲の裏付けにもなっています。

でも、よく見ていると、彼女が一番伝えたいことは「みんなと仲良くなりたい」でも「友達がほしい」でもなかった。これは、「ずっと勇気がでなかったの」と言って内気な主人公がちょっとコミュ障を克服するみたいな話ではありません。順ちゃんは全然引っ込み思案でもおとなしくもないし、むしろ図々しいくらいの行動力のある子で、彼女が言っているのは終始、王子様たすけに来てください、ひいては、「好き」ってことで、王子様である坂上くん以外には、終始、気持ちいいほどに興味がなさそうなのです。

一番ぽかんとしたのは終盤でした。みんなで作り上げてきたミュージカルの本番の日、ショックを受けた順が逃げ込んで隠れてしまった場所が、自分の環境のすべての原因となったラブホだったこと。

本当に、ラブホに逃げ込むだろうか?

普通は、高校生ともなると、ラブホテルが何をする場所かくらい知ることになる。そうじゃなくても、お母さんが「お城にお父さんがいたこと」を報告してから様子がおかしくなったことを思えば、あの場所はなんなんだろう? って思うだろうし、そこで“そういうこと”だと知れば、反応としては「嫌いな場所」になるほうが想像がつく。でも彼女はそうじゃなかった。本当に自分のおしゃべりのせいだ(=お父さんの行為のせいじゃない)と思い込んでいた――というよりも、まだお城への夢がどこかに残っていて、ラブホに隠れながらも、王子様の到来を待っていたから

 

いつか王子様と会いたいと夢見ていたシンデレラや、王子様によって救われる眠りの森の美女や白雪姫と全く同じで、順ちゃんは小さいころに「たすけて王子様」と思ったまま大人になって、「王子様」に助けられた女の子になった。
それが一番すとんと理解できたのはエンドクレジットが流れたときで、彼女の口にチャックをつけた「たまご」は、「卵」ではなく「玉子」で、声は坂上くんと同じ内山昂輝さんなのです。作中に卵を飾る神社みたいなものが出てくるからすっかり「卵」な気がしてたのだけど、これは「玉子にとじこもった女の子が王子に救われる話」で、言葉はいつも誰かを救ったり傷つけたりとても紙一重な存在で、ほんの少しのことで存在意義が変わるようなもので。
そう思うと玉子もまるで王子みたいな格好をしていました。紳士みたいなタマゴだな〜とか思ってる場合ではなかった。細かいところまでこだわって比喩を入れて作られた繊細な作品だなと気付いたとき、すべてがパコッとはまった音がして、あぁこれはおとぎ話なのだ、と思ったし、丁寧に丁寧に狙いを定める作品への制作愛とにやりとした笑いが見えるような気がした。

 

こうやってちまちま考えたら個人的にはこの作品に対するもやもやがすーっと消えてすっきりしたのだけれど、そんなことは置いておいて坂上君がすごくかっこよかった。調子乗ってなくて、クラス行事一緒にやったらピアノ弾けて、いつのまにか人を味方にしてて、自分のこと気にかけてくれて、あんな男子クラスにいたら好きになってしまうよ!! なんだあれは! 内山さんが歌を口ずさむ声も個人的にはものすごく好みでした。
いいなこういうの、クラスっていう、必然性のない自分たちで選んだわけじゃないメンバーで歌とか舞台とか文化祭みたいなものやらなきゃいけないの、当時は些細なことにやきもきしたり感激したりするわけで、青春したいなーって思わせる力はめちゃくちゃありました。エモすぎる。

ミュージカル部分がすごくいいです。みんなが自分の役割をやってお互いを信頼してる高校の行事ってだけでもすごくいいんだけど、既存曲の替え歌でやるっていうそもそもの仕組みもすごく良くて。Over the Rainbowも美しかったし、ベートーベンの悲壮も泣きそうなくらいよかったし、グリーンスリーブスのシーンが最高だった。チープじゃないし、ここでこの曲か……! って鳥肌立っちゃうような選曲と、まさに“ミュージカルには奇跡がつきもの”なラスト。でも、実際こうなんだよなぁ。土壇場って、ハプニングすらいいものに転じるようなことがある。そうみんなが信じるとそうなる。ここだけは、ネタバレなしで、ぜひ、作品で見てほしいです。


映画『心が叫びたがってるんだ。』本予告 - YouTube

歌がいいからサウンドトラック聴きたい。

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

 

コミカライズもされてる。この表紙デザインは好き。