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惹かれる理由を知りたい、に向きあうことから始まる(『藤代さん系。』)

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藤代さん系。 (マーガレットコミックス)

別冊マーガレットで連載された全4巻の少女漫画、
『藤代さん系。』。
ずっと紹介はしたかったんですがものすごく説明しづらくて、
あっという間にひと月くらい経っちゃいました。
ひと目見てまずカラーが素敵。このロゴデザインもすごく素敵。

藤代さん系、って何?っていうと、「真面目で報われない系」。
これを聞いてちょっとえぐられた人は、少女漫画に抵抗がなければもれなく読んでほしいです……!

たとえば、

“やっぱ知らなかったのか 友達少ないとそういう情報まわってこないしね” (3巻 4話目16ページ)

藤代さんが赤点をとったときのクラスメイト千葉くんのモノローグ。

「追試のことはね 田中に聞けばいいよ」「そうなんですか?」って会話のすぐ後にくるこの言葉が、授業は真面目に受ける、無遅刻無欠席、自分の力で勉強しなきゃ、掃除はちゃんとやりましょう、みたいな学生にしかなれなかったわたしには刺さってしょうがない。みんながわいわい過去問回してる輪とか、なんとなく知ってても、入っていけない。友達のつながりから外れてるみたいなのはちょっと気にしてるけど、でも、ちゃんと真面目にしてるのがいいって教わって育ってきたんだもん。

こんな「藤代さん系」なヒロインってほかではなかなか見たことなくて、ものすごく新鮮です。「もー、あんたたち、ちゃんとしなさい!!」的真面目ヒロインはいても、それってしっかり者の領域で、そうじゃなくて、「誰よりも真面目なのに報われない」ってところがポイントで、誰かにおしつける気もなくて、それはもう絶望的に育てられ方の問題で。それが積み重なってるともはやポリシーなんですけど、「これがわたしのポリシーだから」とはなってない。絶対、いるはず! この“真面目”な層のひとはたくさん!

その自分の真面目さを、破りたいわけじゃないのにたまに好きになれない。それを好きになれそうな気持ちにさせてくれるのが、学年で一番頭がいいのにやる気がない、“久世くん”なのです。

ベタ!!!!

でもいいんだ!!!!大好きですベタ!!!

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(2巻 1話目31ページ)

この久世くん、なかなか曲者で、

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(同上)

なんて様子で、意地悪するし、藤代さんとは全然違う人種なのですが、「フーン、いいねそういうの」なんてたまに言うものだから、何度も不意打ちをくらいます。お約束になってきても嬉しい。いつも嬉しい言葉を言ってくれるから、藤代さんと一緒に期待しちゃう。
だから、藤代さんが久世くんのことを気になるのはわかるんです。当然だ、自分のことを認めてくれるってめちゃくちゃ嬉しい。

でもそこで、それだけじゃなくて、久世くんがなんで藤代さんを気にかけて構うのか、それがすごくちゃんと伝わってくるから、この作品がものすごく好きだなあと思うのです。
少女漫画では、「なんでこれまでモテなかった子が突然学年一のイケメンに言い寄られてるんだ!」的ファンタジーが日常茶飯事な中で、この作品は、藤代さんだけじゃなくて、久世くんと、それから千葉くん、古瀬さんっていう4人の登場人物が全員ちがう育ち方の「人」として描かれていて、良さもコンプレックスもあって、あぁこれは完全ファンタジーじゃないかもしれない、って思いたくなる。こんな嬉しいことが起きるかもって思える。

久世くんは顔もいいし頭もいい設定だけど、全然完璧じゃないし、でも、だからこの人間関係になったんだ、と思えるのはすごくいい。ただのイケメンじゃなくて本当によかった。

その“藤代さんが気になる理由”を久世くん自身がはっきり認識できないままお話が進みます。最後まで明確な言葉では語られないのだけれど、その行間を読むのが楽しい。頭いい男の子が感情に翻弄されてるのはほんと良い…! 宇佐美真紀さんの『ココロ・ボタン』の古閑くんも賢い系意地悪男子ですが、彼はずっとヒロインより上手だったのに対して、久世くんは意外にもイーブンな感じで、それが最高にときめく。藤代さんが恋をする話というよりは、久世くんが「惹かれる理由を知りたい」に向きあっていく物語な気がする。

 

って、もちろんそんなに考えて読まなくて全然いいわけなのですが、なんかね、どこまでも深読みできる漫画なんですよ。読めば読むほどあぁなるほどと思ったり、分かることが増えたりする。

ちょっと特殊な連載だった作品で、最初『藤代さん系。』は1巻完結として出て、そのあと『茜君のココロ』っていう別連載をはさんで、また『藤代さん系。』の2巻から先を連載。なので、2巻からが一気に流れる感じがします。千葉くんも出てくるしぐっと面白くなるので、ぜひ2巻から先も読んでほしい! というか最終4巻が好きすぎるので、ぜひ最後まで……!!

中身についてはこれ以上書くとネタバレしすぎちゃうのでやめますが、最後にひとつ。久世くんの質量がとても良いんです。質量! 伝わるでしょうか、分かってくれる人いたらうれしいなあ。

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(2巻 2話目12ページ)

ふとしたカットでも身体の厚みを感じる絵柄で、シャツのしわとかね、細かいところからたぶん脳が読み取ってるんだと思うんですけど、これがとても個人的にはツボです。首の太さとかね! 薄っぺらくなくて、存在感があって、なんかこっちまでその雰囲気にどきっとさせられちゃう感じなのです。まさに質量。好きな人がそのへんにいるときに感じる存在感をそのまま思い出せそうな。どんな仕草でもなんでもない角度でもよく見えてたときみたいな。というか色んな角度を見せてくれてる。うれしい。でも大事なシーンはまっすぐを見られるから、もれなくどきっとします。新しいけど王道少女漫画。おすすめです。

藤代さん系。 (マーガレットコミックス)

藤代さん系。 (マーガレットコミックス)

 
茜君のココロ (マーガレットコミックス)

茜君のココロ (マーガレットコミックス)

 

そういえば、最初に手に取るきっかけになったのは通い詰めてる下北沢の本屋さんのPOPでした。ありがたいなあ。初コミックスがこれってすごいなあと思う作家さんなので、これからも読みます。