物語のなかをぐるぐる廻る

すきなものをならべていく

後悔しないためにしてほしいこと - 『orange』

スポンサーリンク

orange(3) (アクションコミックス(月刊アクション))

高野苺さんの『orange』全5巻。途中別冊マーガレット休載から月刊アクションへの移籍があったので、再スタートしたときは本当に嬉しかった、ずっと続きを楽しみにしていた作品になりました。

高野苺「orange」特設サイト |株式会社双葉社 アクションコミックス

 

高校2年生の春。菜穂は1通の手紙を受け取ります。差出人は、10年後の自分。
最初はいたずらかと思った菜穂ですが、寝坊や転校生の存在などを手紙が言い当てたことで、だんだんと信じるようになっていきます。そこに書かれていたのは、これからの約1年間の間に起きることと、「後悔しないためにしてほしいこと」。引っ込み思案でなかなか自分の気持ちを外に出せない菜穂は、10年後の自分の後悔を消すため、自分を変えて未来を変えようとします。
その後悔は、「翔を死なせてしまったこと」――。

f:id:le_beaujapon:20160103141043j:plain f:id:le_beaujapon:20160103164624j:plain
(1巻9ページ/2巻27ページ)

 

結末がこれほど重要な作品もないのでネタバレ含みます。
青春SFラブストーリー、というあおりにもある通り、「未来からくる手紙」というひとつの不思議なアイテムが、この物語の結末をいっそう予測不可能にしていて、最後までずっとどこか緊張しながら読んでいました。その手紙の存在の論理的な説明はされずに終わっていることにレビューなどでは賛否両論ありますが、個人的にはとても好きなラストでした。

手紙を送った26歳の菜穂たちは手紙が届いたことも知らないわけだから、どうやって届いたのか、本当に届いたのか、パラレルワールドは存在するのか、そういった「SF」としての整合性は特に重視する必要がなくて、実現したかどうかは問題にされてない作品に見えました。
言ってしまえば自己満足に近くて、「届いたら、翔を助けられるのに」と彼女たちが願い、「翔が別の世界で生き続けていることを思っている」ということだけが現実であり重要なことで、高校生パートはその「届いたら」の部分。

そこで描かれているのも、手紙の存在の不思議さよりも、どう頑張るのかや、諦めないことだったり素直になることだったり勇気を出すことで、そうやって少しずつ頑張ることが未来を変えていることを実感しながら菜穂たちは前に進んでいて、とてもとても救いのある、頑張ることに意味を感じさせてくれる、強いメッセージを含んだ作品でした。

 

菜穂はどちらかといえば奥手で、気持ちを飲み込んで常に相手を優先しているようなタイプですが、手紙に導かれて、少しずつ、言えなかった「ごめんね」や「ありがとう」を口に出したり、意思を行動に移したりしていきます。小さなことでも、自分の毎日や、相手の気持ちが変わる。一言で傷つけることもあれば、一言で元気づけることもできる。そのひとつひとつがすごく丁寧に描かれていて、それがとても好きでした。

f:id:le_beaujapon:20160103141401j:plain f:id:le_beaujapon:20160103141422j:plain
(1巻48ページ/82ページ)

作中で何気なく挿入された、菜穂が決意するときの優しい言葉が響きます。

翔はちゃんと ここにいる
声が聞ける 私の声も届く
大切にしたい 一秒 一瞬

(1巻183-184ページ)

その積み重ねで、 忘れられない瞬間や、最高の時間が生まれて、毎日はそうやって楽しくなっていく。印象的なコマ割りや登場人物の配置、表情で、本当にページが鮮やかに見えます。

f:id:le_beaujapon:20160103141525j:plain f:id:le_beaujapon:20160103141547j:plain
(2巻125ページ/126ページ)

何も手にしようとしなかった翔が、何かを欲しいと思うようになっていく。「どうでもいい」が「どうでもよくない」になっていくこと、大事なものがふえていくこと。ひとつひとつの小さな後悔を消すことで明るく笑顔でいられる未来を掴もうとする6人の1年間には、焦りも不安も喜びも安心も、すべての感情が詰まっています。

f:id:le_beaujapon:20160103164711j:plain f:id:le_beaujapon:20160103164727j:plain
(4巻74ページ/86ページ)

 

高野苺さんの絵は漫画の中のモノクロももちろんですがカラーが本当に好きすぎて!! とくに別冊マーガレットのものすごくかわいいデザインと一緒だとときめきがすごい。単行本派なので連載をあんまりキャッチしていなくて、一番左の8月号は店頭で見かけて検索したくらいのインパクトでした。今見てもかわいい……。

別冊 マーガレット 2012年 08月号 [雑誌] 別冊 マーガレット 2012年 04月号 [雑誌] 別冊 マーガレット 2012年 12月号 [雑誌]

デザインといえば、この作品は単行本の装丁も良くて、集英社時代の2巻分もものすごくかわいいです。こういうデザインのものあんまりなかったから売り場できらめいて見えました。しかも横につながっていくデザインだったから、これの続きが見られなかったのはちょっと残念……。

f:id:le_beaujapon:20151229160759j:plain f:id:le_beaujapon:20151229160805j:plain

でも、全面イラストに下タイトル、白帯の双葉社版も大人っぽくて好きです。

もちろんすべてkindleにもなっているし、実本単行本だとカバーめくった表紙にイラストが入っているのを見られるので、紙のほうもおすすめです。

orange : 1 (アクションコミックス)

orange : 1 (アクションコミックス)

 
orange(1) (アクションコミックス)

orange(1) (アクションコミックス)

 

双葉社版全5巻には、巻末に別作品『春色アストロノート』が1話ずつ載っているのも嬉しい。双子の女の子を取り巻く元気な話。

f:id:le_beaujapon:20151229161224j:plain

高野苺さんは今前作の『夢見る太陽』も双葉社から再刊行されています。このカバーもおしゃれ。ぜひ。

夢みる太陽(1) (アクションコミックス)

夢みる太陽(1) (アクションコミックス)