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舞台『イニシュマン島のビリー』で古川雄輝を好きになった

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舞台『イニシュマン島のビリー』を見てきました。4月7日19時の回。世田谷パブリックシアターにて。

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古川雄輝さんの前にまず、とにかくこの作品自体がとてもとても良かった。好きな作品だった。久々に、なんだろう、「エンターテイメント!」ではない「舞台」を見た。ああお芝居を見に来たな、と思ったときの独特な緊張。

舞台は1930年代のアイルランド。説明口調がどこにもないのに、舞台セットや衣装や描かれている生活の様子から、歴史やその時代のアイルランドの暮らしが浮かび上がるのがすごかった。牛や岩や洋服や繰り返される行動が、その村の窮屈さと、穏やかだけど単調で退屈な日々を空気全体で伝えてきた。

同じ言葉を繰り返したり、人物名を台詞に過多に入れたりと、演劇的台詞まわしが多くて、ある意味無駄ばかりなのに、無駄がひとつもなかった。その小気味良いリズムと演劇ぶった台詞が逆に登場人物を「物語の中の登場人物」にしていて、リアルさと寓話的な印象を同時に受けるのが面白かった。一気に世界に引き込まれていく感じがした。

セットの作りと場面の転換が好きだった。舞台全体が丸くくり抜かれた台のようになっていて、全体がぐるっと回る。ビリーの家、海岸、教会、ジョニーパティーンマイクの家などがくるくると出てくる。回り切ったら左右が静かに閉まる。一連の動きがお洒落ですらあった。動くところを見せながら回って、余計に1周したときもあって、時間経過の演出が面白かった。このターンテーブルみたいな舞台くらいの広さしか、彼らの世界は広がっていないんだという気がした。毎日同じ人に顔を合わせて、毎日朝と夜が来る。

 

そして、古川雄輝さんである。舞台全体、全てが良かったのだけれど、彼の演技がものすごくインパクトがあった。ミスター慶応、ニューヨーク、みたいなイメージで、出演作品も『イタズラなkiss』とか『脳内ポイズンベリー』とか『5時から9時まで』みたいな、キラキライケメン男子っていう印象だった。その少女漫画みたいな側面だけでもどことなく気になってしまう引力があって、不思議と見ると印象に残っていて、それで今回のこの役。片手片足が不自由で、みんなにいじめられたり噂されたりしている「びっこのビリー」。登場したときの引きずるように動かす身体にびっくりして以降、ずっと目を離せなかった。

手足を引きずったことはないはずなのに、どこかで見たことがある障害者の方の動きを生々しく思い出す。ちょっと足を引きずるくらいじゃなくて、動かない足を唯一動く片手でぐいっと引いて座るとか、ひとつひとつの動きがすごかった。見ているこっちまで苦しくなってしまうような咳や呼吸も。どこか頭の良さと自意識をこじらせた感じが伝わる妙に冷静な喋り方、ぶっきらぼうさ、情けない呟き。

彼を囲む他の登場人物が「演劇らしい」喋り方、動きでコメディを支える中で、彼だけはつぶやいたり怒鳴ったり、自然な喋り方をするように演出されていて、舞台上で大仰にやらずに自然に見せることがいかに難しいかと思うと、この人すごいんじゃ、とずっと驚いていた。始まってから終わりまでずっと。途中から、次の舞台も絶対見たいと思っていた。キラキラしたイケメンも目の保養には悪くないけど、本気の演技をもっと見たい。演劇関係の皆様……!!

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作中にはメッセージがたくさん詰まっていて、どれもまったく押し付けがましさがなくてすごかった。騙す相手は間違えちゃいけないな、人の気持ちを踏みにじっちゃいけないな、と自然と考えていた。人を嗤っちゃいけない、噂話はいけない、だけど一番優しい人は一番バカな人かもしれない。そして、愛情は手を伸ばせば意外に簡単に手に入るものなのかもしれないけれど、それが長くは続かないところが、まったく演劇の悪い癖だ。終始はらはらしていた。たくさん笑った。演出家さん、「森新太郎」さん。初めて拝見した方だったけど、またこの方の作品にも行きたい。

 

いろんな人に勧めたいけど、東京は本日千秋楽。残念。大阪にこれから行くようです。再演したらまた見に行きたいくらいはおすすめ。ここからちょっと映像見られます。


舞台『イニシュマン島のビリー』開幕!舞台映像が届きました。

 

素に近い古川さんのこんな映像も。


【古川雄輝】舞台『イニシュマン島のビリー』開幕直前特番①/2 2016,03,13

古川雄輝さん、本当にハマる予感がする……! とりあえず、神木くんも出るので、『太陽』見に行こうかなと思いつつ。次の作品も楽しみ。