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自分に構築された考え方とひたすら向き合って戦う10年間――『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』

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pixivで話題となった「レズ風俗レポ」が書籍になって刊行されました。わたしはレズビアンではないけれど、pixiv掲載当時、その響きにはなんだか惹かれる気がして、本当に興味だけで覗いたものでした。実際に体験している部分は衝撃的で、ずっと記憶に残っていた作品です。

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

今回の書籍化は、pixivで公開された「本番」よりも前、作者の永田さんがどうしてレズ風俗に行こうと決めたのかを語る10年間が加筆されています。
大学を半年で退学し、鬱と摂食障害になっていた作者。焦ってバイトを始めるも辛くなって遅刻早退欠勤が増え、最終的には解雇されたりと、壮絶な日々を送ります。痩せて身体が弱ってボロボロになっていくのが「うれしかった」と語られていて、こういう感覚は多分、共感度合いが読み手によって大きく変わる部分になるはず。わたし自身は大学に行き会社に入り、幸いにも健康を損なったり大きなトラブルになったりせずに過ごしてきて、どちらかといえば驚きと心配とともに読み進めていました。
びっくりしたのが、アルバイトのレジ打ちの最中でも「発狂しそうな食べたさ」の過食衝動がくるシーン。作者はトイレに行くふりをして更衣室に駆け込み、とにかく食べられるものを食べます。お湯を入れないでカップめんの麺をかじって麺が血に染まるというエピソードについ一瞬手が止まりました。

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(15ページ)

家族との関係や自分に構築された考え方とひたすら向き合って戦う10年間。重そうにも思えますが、その語りがとても冷静で(振り返れているからなのだけど)ロジカルでテンポが良くて、似たような経験をしていない人でも想像しながら読めてしまいます。
「死にたい」とずっと思っていたという作者ですが、作中では「ほしい物も行きたい所もわからない」という中でも、「抱きしめてほしい」「マンガを描きたい」「キラキラした大人になりたい」などの希望を一つずつ見つけて進んでいきます。
とても印象に残ったのは、ムダ毛の処理をして、お風呂に入って、綺麗な服を着るようになるところ。どんな人でも、部屋が汚れているときとか、あまりきちんと寝なかったりとか、メイクを落とさずに寝たとか、「自分を大事にしてない」感覚には覚えがある気がして、ほんの小さな余裕をつくることや自分のために行動したときのすっきりとした感じはとてもわかる、と思ったから。

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(66、67ページ)

タイトルになっている「レズ風俗」のシーンは全体の中ではとても少ないです。でも、この1話分が、お風呂のお湯の温度やシーツの肌触りまで感じられそうなくらいの迫力。性に対する知識や自信が最初からあるなんて人はいないわけで、結構な割合の人が不安や怖さを感じたはずで、「レズ風俗」という体験したことのない状況の描写が、その全身の毛が逆立つような緊張感を伝えてくれます。誰かの前で裸になるのって、友達と温泉くらいでも結構緊張するのに、触ったり触られたりするって、ほんとにすごいことだ。

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(91ページ)

きっと読み手の辿ってきた人生や考え方によって、この漫画に抱く感想は全然違います。大共感、という人もいれば、はてなが浮かぶ人もいるだろうし、共感するポイントも全然違う。わたしはこの作者さんと同じさみしさを体験したことがあるわけではないけれど、「性的なことはタブーで考えてもいけない」って思っていたのはすごくすごく身に覚えがあったし、風俗なんてけしからんと思う人もいるだろうけど、わたしはこんな風俗だったらいいなと思いました。合うか合わないか、それは読んでみるまでわからないから、(この記事を含め)他の人の感想より、まずちょっと読んでみてほしい作品です。ぜひ。

 

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

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