死にたいと願う不死身の女性が出会った特別な悲しみ――『兎が二匹』
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読むたび何度でも鳥肌が立つ作品がある。山うたさんの『兎が二匹』。孤独と寂しさを抱えた二人の物語だ。
不老不死の体を持ち、398年生き続ける女・すず。彼女と同居している青年・サクの日課は、彼女の自殺ほう助だ。首を絞めたり、刺したり、サクは毎日泣きながらすずを殺すが、彼女は決して死ななかった。
サクは、親に捨てられた自分を拾ってくれたすずに恋心を抱くようになり、すずは、サクもまたあっという間に死んでしまうこと、サクの人生を自分が邪魔することを恐れるようになる。そして彼女が選んだ道は、国に死刑にしてもらうことだった。
(1巻6ページ)
もしすずのように「死ねない体」になったら、何を目的にして過ごすだろう。どんな飢餓でも、全身が焼けても死なない。普通であれば年齢とともに人生のステージがあって目標ややりたいことや楽しみがある中で、80年なんてとうにこえて400年を生きていたら。そう考えると、人生の時間が限られているからこそ駆り立てられる何かがあるのではないかと思えてくる。
ただ時間が長いだけではなく、周りがどんどん変化していく中で、自分に変化は訪れない。何人もの好きな人が死んでいき、少しでも長く一緒にいれば、年を重ねないことを不審がられる。人とのつながりがあれば生きていけるような気になるが、すずにとってはそれも苦しみのもととなった。
そして、彼女は「死なないだけ」だ。食料がなければお腹がすくし、首を折れば痛いのだ。いっそ何も感じなければ人目につかないところで眠り続けてもいいのかもしれないけれど、死なない以外の感覚は、他の人と全く変わらないところが酷くつらい。食べなくても死なないけれど、お腹がすく。周りの人間は、お腹がすきすぎれば死んでいった。この状況でラッキーだと思える人はそういないだろう。
(1巻15ページ)
すずの苦しみが爆発するかのような自殺シーンは何度見ても衝撃的で、生首になっても数分で生き返る。生き返ると分かっていても、ほう助するサクは大泣きする。死んでしまうから悲しいのではなく、すずが「死にたい」と思っているから悲しい。こんなにすれ違った愛はない。お互いのことが大切すぎて、どんどん離れていくなんて。
(1巻19ページ/2巻68ページ)
なんと1話で、国の死刑でも死ねずに町に戻ったすずは、サクの死を知ることになる。そこでこの悲しい物語は短編として充分美しくて、完結しても良いくらいに思えるのに、全2巻で続くその先の物語は、それ以上にもっともっともっと美しい。この結末は、ぜひネタバレなく読んでみてほしい。
江戸の飢餓や原爆を落とされた広島などのディテールがつくる重みがすごい。すずがものを何百年も生かし続ける骨董の修理という仕事を生業にしていることも。400年分の風景を背負い、生き続けてきたすずが進む先とは。全部読んでから、このタイトルの秀逸さも分かる。また手放したくない作品に出会った。この方の次の作品も絶対に読みたい。
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